その強みは本物なのかを
突き詰めて考える

 2024年12月期通期決算で、AGCは売上高2兆円強、営業利益1258億円を計上。売上規模では建築ガラス、オートモーティブ、電子、化学品などが大きいが、特定事業に依存する度合いは小さい。その分、グローバル経済の変動要因や大口顧客の事情に左右されるリスクは抑制されている。実は、かつて「液晶一本足」と評された時代もあったと宮地氏は振り返る。

「2010年前後、液晶向けのガラスを提供する電子事業が、連結利益の大部分を占めていました。その後、競争激化に伴い液晶ガラスの価格が急落し、数年連続して減益を記録しました。その危機感の中で、2015年に実施したのが『2025年ありたい姿プロジェクト』です」

 各部門から次世代幹部候補を集め、10年後のAGCについて議論を重ねた。このプロジェクトを通じ、ポートフォリオの転換と戦略事業の拡大という方針が明確になった。挑戦する風土、優秀な人財、幅広い顧客基盤などの強みを活かし、ガラスにこだわりすぎず成長産業に素材を提供するとの方向性が打ち出された。

「市況変動に強く、資産効率・成長性・炭素効率の高い事業ポートフォリオの構築を目指す。そのために、コア事業が生み出したキャッシュを戦略事業に振り向ける。それが全社戦略です。今日まで戦略事業強化に向けた企業買収を実施する一方、いくつかの事業売却も行っています」

 AGCは、エレクトロニクス、モビリティ、ライフサイエンス、パフォーマンスケミカルズを戦略事業と位置付けるが、すべての挑戦が実を結んでいるわけではない。しかし、挑戦しなければイノベーションは生まれない。

「事業規模が大きいだけでは利益につながらない時代です。差別化要素、強みがなければいけません。ポートフォリオ経営で重要なのは、その強みが本物なのかを突き詰めて考えること。そして、自分たちはその事業にとってベストオーナーなのかを問い続けることです」と宮地氏は語る。

 現在、幅広い分野での技術発展で、素材の進化のスピードが増している。こうした中で、いかにイノベーションを生み出すか。素材メーカーとして難しい部分もある。

「以前は素材の強みだけで勝負できましたが、最近はそれだけでの差別化は難しい。差別化要素を見出すアプローチの一つは複合化です。たとえば、無機物と有機物を組み合わせて、新しい複合材料をつくる。それによる成果も出始めています」と宮地氏。岩崎が体現した創業の精神を胸に、AGCの多くの研究者や技術者が今日も挑戦を続けている。