「日銀の担当者が書いた講演原稿を深い意味を考えずに読んだだけ」という説がある。果たして黒田は、さりげなく埋め込まれたキーワードに気づかなかったのだろうか。
政治家なら官僚の振り付けに乗ってしまうことがよくある。だが黒田はそれをやってきた官僚である。
「日銀総裁になれば、総裁として何をし、何を言わなければならないか、おのずと分かる」と日銀OBは言う。
総裁の座を射止めるまでは「おっしゃる大胆な金融緩和をします」とにじり寄った。就任と同時に異次元の金融政策を披露し世間を驚かし、首相を喜ばせした。これからは過ちなく舵取りを進めなければならない。そこで起きたのが予想外の長期金利の上昇だ。
巨額の日銀マネーを市場に流し込めば、長期金利は下がるはずだった。
黒田緩和が長期金利反転に火
財務省のホームページに「日本の利払い費と公債残高」の図表がアップされている。昭和50年(1975年)から国債残高、国債金利、その年の利払い費をグラフで示している。
2012年の国債残高は713兆円ある。バブル崩壊直後の1992年は178兆円だった。20年で535兆円も膨らんだが、92年は10.8兆円あった利払い費が、2012年は8.4兆円しかない。金利が下がったからだ。20年前は5.8%だった長期金利が今や1%台に下がった。
20年余つづく長期金利の低下で、借金の重圧は驚くほど軽くなっている。だが金利が上昇に転ずればどうなるか、このグラフは財政の危機的状況を物語っている。
国債市場には自律機能があるという。過度な発行が続くと、市場は危ないと感じ取り金利が跳ね上がる。それが今起きているのかもしれない。
金利を一段引き下げるはずの黒田緩和が反転に火をつけた。市場はいつまでも金利低下という一方向に動きつづけるものではない。



