安倍政権の足下で「消費税増税の可否」に火がついた。首相側近のリフレ派学者は「増税は景気回復が確かなものになってから」と、来年4月に予定する8%への引き上げを見送るべきだ、と言い始めた。
一方、財務省は「国際公約にもなった消費増税を先送りしたら日本経済の信用は一気に失われる」と一歩も引かない構え。内部対立を顕在化させまいと議論は封印されたが、背景には経済観の違いがあり妥協は容易ではない。首相側近と財務省の深い溝は、安倍・麻生の抗争に発展する可能性さえ秘めている。
黒田発言の真意はどこに
注目されるのは財務官僚OBでありながらリフレ派に理解ある黒田東彦日銀総裁の去就だ。その黒田総裁が、5月26日の講演で、こう述べた。
「財政の持続性に対する懸念を生じさせないためにも、政府における財政構造改革に向けた取り組みを着実に進展させてゆくことが重要です」
その前段では、長期金利の上昇が銀行経営を圧迫する恐れがあると指摘している。経済状況が改善しないまま、財政への不安から長期金利が上がると国債に評価損を発生させ、大量に国債を抱える銀行の経営を圧迫する、と説いた。黒田のスタンスが、微妙に財務省側に移っているように読める。
アベノミクスの第二の矢は「機動的な財政」だ。第一の矢である「大胆な金融緩和」で市場に大量の日銀マネーを流し、財政出動で有効需要を創って景気を押し上げよう、というシナリオだった。その矢先に「財政構造改革」である。放漫財政はダメ。つまり「財政出動するなら消費税増税をちゃんとやってくださいね」という意味が言外に込められている。
白川総裁のころから日銀は「政府がインフレ目標を定めろ、というなら、政府は財政規律を守る約束を」と求めていた。安倍政権はこれを認めず、デフレ脱却には思い切った政策が必要で、財政規律などというネガティブな条件は要らないと強気だった。
中央銀行である日銀が、政府の領域である財政に口出しするのは越権行為とも言われかねない。にもかかわらず黒田総裁が踏み込んだのはなぜか。