自社の「守」が何を知り
「型」の限界を突「破」する

 基調講演の終了後、全体ディスカッションへと移った。

 議論の導入として、司会を務めたPwC Japanディレクターの永妻恭彦氏が、同社の「PwC第28回世界CEO意識調査」に言及。日本のCEOの半数近くが「現在のビジネスのやり方を変えなかった場合、会社は10年は保たない」と回答していることを挙げ、事業ポートフォリオ変革の必要性をあらためて強調した。

自社の強みをどのように再編集するか新たな成長へ向けた事業変革の形

 続くディスカッションでは、「日本古来の進化のリズム『守破離』で考える 自社の強みをどう再編集するか」というテーマの下、次の2つの問いが設定された。

1. 自社の「守」は何か。そこからどのような「破」と「離」が望めるのか。
2. M&Aを活用して、自社の強みをどのように再編集したいか。

 1の問いについて、植田氏はダイキン工業の軌跡を「守破離」の文脈で説明する。

  「当社の『守』は、空調の技術、商品、販売・サービス、そして人を大切にする企業文化だと思います。『破』は、市場をずらしたということで、本格的なグローバルビジネスへの参入です。とはいえ、グローバル市場においても空調機器の販売だけではほぼ限界に来ていますので、『機器売り』から『トータルソリューション』へのずらしを進めていきたいと考えています」

 一方の名和氏は「『守=型』を覚えたうえで、その限界を『破=突破』する。両者の往還を繰り返していれば、やがて『離』に至る」と説明。また2の問いに関連し、M&Aの要諦を次のように解説した。

自社の強みをどのように再編集するか新たな成長へ向けた事業変革の形

 「投資に見合うリターンやシナジーを本当に得られるのか、シナリオをよく練ることが重要です。先ほど植田氏から『買収企業の役員を残す』という話がありましたが、ダイキン工業に限らず、本質的に『人』を買っている企業はM&Aを成功させています」

 その後のディスカッションでは、各円卓に配されたPwCスタッフがモデレーターを務め、2つの問いをめぐって聴講者による活発な意見交換がなされた。

 全体共有の時間も設けられ、祖業で培った技術を横展開して事業領域の拡大に成功している事例や、競合とは異なる価値観での商品開発、スマイルカーブ上での前後移動など、各社各様の「破=ずらし」の取り組みが発表された。他方、業種の特性や企業文化に由来する取り組みの難しさや失敗事例も明かされ、実践的な気づきに富むディスカッションとなった。

 このラウンドテーブルで得た知見を持ち帰り、どう自社の取り組みに活かしていくのか。名和氏は「皆さんの発表が、まさに日本企業の現実だと思います。失敗を恐れず、失敗から学ぶことを大事にしてほしい」とエールを贈った。

 

 

◉構成・まとめ|金田修宏 ◉撮影|佐藤元一