成長のエンジンは
「収益獲得力」と「市場創造力」

 3要素のうちのソフトとしては、パーパス(未来のありたい姿)に加えて「プリンシプル」(原理原則)が不可欠だ。グレーゾーンの難しい判断を迫られる現場では、パーパスは判断軸になりづらい。一人ひとりが「プリンシプル」を自分事化することで初めて、「パーパスが『プラクティス』(実践)に落とし込まれる」と名和氏は説く。

自社の強みをどのように再編集するか新たな成長へ向けた事業変革の形

 では、ハードとは何か。名和氏が提案するのは「Xモデル」である。この経営モデルでは、会社の競争力を「経営変革力」「収益獲得力」「市場創造力」「現場力」の4要素に分解し、3層のピラミッド構造としてとらえる(図表1)。3層は下から順に「守」「破」「離」に該当し、日本企業は現場力(守)が強い一方、海外企業と比較して経営変革力(離)が非常に弱いと名和氏は指摘する。

自社の強みをどのように再編集するか新たな成長へ向けた事業変革の形表1 名和氏が提唱する「Xモデル」
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  「しかし最も大事なのは『破』に当たる中間の『収益獲得力』と『市場創造力』です。現場力をベースに収益獲得力と市場創造力を徹底的に磨けば、成長のエンジンになります。エンジンをつくることなく『離』に手を出したところで、うまくいくはずがありません」

 そのエンジンの“種”は、現場からもたらされる。現場では日々、本社が想定していなかったさまざまな現実、すなわち「ゆらぎ」に直面する。それらを本社が「つなぎ」、さらに「ずらす」。「こうした『ゆらぎ・つなぎ・ずらし』を行うことが、イノベーションのリズムです」と名和氏は言う。

 元来、現場の「たくみ」(匠)と「しくみ」(型)は二律背反とされてきた。だが名和氏は、野中郁次郎氏が提唱した「知識創造経営」のキーワード「クリエイティブ・ルーチン」に言及しつつ、「たくみ」から「しくみ」の変換は可能だと訴える。

  「現場が発揮したさまざまなクリエイティビティを本社が吸い上げ、型に落とし込んでいく。この体系が確立されると、組織は進化します。ただし『しくみ』はいずれ陳腐化するので、たえず新たな『たくみ』を取り込んで、仕組みを進化させていくことが大事。こうしたクリエイティブ・ルーチンが、日本企業の勝ちパターンになると思っています」

 日本的な価値が世界的に再評価されているいまこそ、日本企業にとっては「シン日本流」が成長のダイナミズムを取り戻すカギとなる。