安全性がカギになる
リチウムイオン電池

 昨今、リチウムイオン電池を搭載した一部電気自動車での電池の発火やボーイング787型機でのバッテリーの不具合報告などが目立った。787型機は営業運航を再開したものの、バッテリー不具合の根本原因は、解決に至っていない。バッテリー内に納められた電池のセル(電池の最小単位)とセルの間に仕切りを設け、かつバッテリー全体を金属で覆い、万一、電池からの発火や発煙があっても大事に至らないようにし、運航再開に漕ぎつけたものだ。

 つまり、蓄電システム全体で安全性を確保しようという発想だ。誤解を恐れずに言えば、仮に電池の一部が破損や発火しても、バッテリー全体ひいてはそれを搭載している車や航空機、家などに被害が及ばなければよいという考え方だ。

 現実問題として、車や航空機にはリコールや不具合が起きることはある。その問題点を、実際に稼動させながら調整して、より高い安全性を追求していくという対応が取られている。

 とはいえ、リチウムイオン電池の中でも大型の電池は、車両や航空機、家庭やオフィス内など、人の生命と密接に関連する場所に設置され、四六時中の稼動が想定される製品であることも事実だ。住人が就寝中の家屋で発火すれば、大きな災害に結びつくこともある。それだけに、蓄電システム全体で安全性をカバーするという発想ではなく、電池単体での安全性確保を追求することは大きな課題である。

電池の素材、
レアメタルと環境負荷

 民間航空機の分野では、787型機に次いで、エアバス社製のA350型機にもリチウムイオン電池の搭載が予定されている。航空機や電気自動車、自家発電や蓄電池を備えたスマートハウス・マンションが一層の普及に向かう前に、リチウムイオン電池そのものの安全性をより高めたり、規格を厳格化する必要がありそうだ。

 現在、リチウムイオン電池の正極部分には、主としてコバルトやニッケルと言ったいわゆるレアメタルが使われることが一般的だ。これらのレアメタル素材は、他の素材に比べると、エネルギー密度が高い特色がある反面、安全面での制御に高い技術を要するという問題がある。

 また、レアメタル素材は高価なだけでなく、産出国がチリなど一部の国に偏りがちで、安定供給にも神経を使う。現在、大手商社などを中心に、供給先や供給量を増やそうとする試みが進められてはいるが、リチウムイオン電池の一層の増産を考えた場合、抜本的な素材や技術の転換も求められる。

 現在、東北大学や東京理科大学などの研究機関や一部の企業では、レアメタルに代えて、鉄やマンガンといった代替素材でリチウムイオン電池を製造する研究が進められている。また一部の企業は、それらの素材を用いたリチウムイオン電池の製品化に先駆けて漕ぎ着けている。

 蓄電が当たり前になる社会の実現に向けて、リチウムイオン電池をはじめとする高性能電池の一層の普及と量産による価格低下、国や自治体による導入補助金制度の充実が望まれる。