既存技術を掛け合わせ
将来への成長基盤を構築

 ヘルスケア事業においては、これまで「ライフサイエンス」と「メディカルシステム」という2つの領域で積極的なM&Aを展開してきた。

  まず、ライフサイエンスについては、2008年に傘下に収めた富山化学工業を「医薬品ビジネスの橋頭堡」として、その後、バイオ医薬品の開発製造受託を行うMSD Biologics、iPS細胞のCellular Dynamics、培地のIrvine Scientificなどを買収。バイオCDMO(開発製造受託)においては、2019年にグローバルバイオ医薬品企業からデンマークの大型生産拠点を獲得した。

  こうした買収が結実し、「バイオ医薬品の初期開発から大規模な商業生産までカバーする『End to End』のソリューション提供を可能にする体制が整いました」と樋口氏。「大型の設備投資を通じたオーガニックな成長フェーズに移行したと判断しています」と現状を語った。

未来のコア事業をどう見つけるかM&Aによる事業基盤強化の要諦

 他方、メディカルシステムに関しても、M&Aを通じて製品ポートフォリオを拡充。2021年には日本の大手総合電機メーカーから画像診断関連事業を買収したことで、以前より展開していた世界トップシェアの医用画像情報システム(PACS)、X線画像診断システム、内視鏡、超音波診断装置、体外診断システムのラインアップに、CTやMRIが加わった。こうした医療機器とIT・AI技術を組み合わせて、医師の診断やワークフローを支援するソリューションを提供している。ソフトウェアやAIによる付加価値の重要性が高まる中、樋口氏は「『モノ+コト』を売るリカーリングビジネスを目指しています」と、今後の戦略を明かした。

 エレクトロニクス事業では、半導体材料市場の拡大を見据え、M&Aを通じたポートフォリオ拡充を進めてきた。2023年には、アメリカを拠点とする先端材料科学企業の半導体用プロセスケミカル事業を買収。半導体製造プロセスを広くカバーする製品をラインアップすることで総合提案力を高めるとともに、欧米での製造拠点の拡充に加え、富士フイルムの半導体材料分野では初めてとなる東南アジアでの製造拠点の取得で、より強固でグローバルな製造体制を構築し、顧客の隣接地域で生産・供給・サポートできる体制を強化した。

 これにより、「半導体製造における前工程のほぼすべてをカバーする製品供給が可能となり、顧客が抱える複雑な課題への対応力を高めることができました」と樋口氏。今後はそこで培った技術を活用し、後工程材料の開発を加速していくという。

  事業ポートフォリオ改革の結果、2000年当時は売上高の6割を占めていた祖業のイメージング事業が2024年には2割弱となった。一方で、ヘルスケア事業は1割から3割へ大きく伸長。エレクトロニクス事業では、成長事業と位置付ける半導体材料の売上高を2030年度までに現在の倍となる5000億円とする目標を掲げている。

  「もちろん、撤退や売却した事業もあります。収益性と成長性を軸に、各事業を収益基盤事業、成長事業、新規/次世代事業、価値再構築事業の4つに分類し、事業の位置付けに応じた戦略策定や投資判断を行っています」(樋口氏)

  M&Aを通じて獲得した技術に自社の既存技術を掛け合わせ、将来につながる成長基盤を構築していく。富士フイルムの事業ポートフォリオ変革は、既存技術を活かした買収のモデルケースとして多くの示唆に富んでいる。