設立したJVを子会社化
粘りの経営で好機をつかむ
同社のM&Aの事例として、樋爪氏はワイヤーハーネス、電力ケーブル、伝送デバイス、巻線の各事業、および上場関係会社の再編を挙げた。そのうちのいくつかには、「事業環境の悪化→ジョイントベンチャー(JV)設立→統合→事業環境の改善による収益向上」という共通点がある。
たとえば、電力ケーブル事業は1999年度以降、国内の需要減少や国際市場での競争激化などによって赤字に転落した。その後もさらなる需要減少が見込まれたことから、単独での立て直しは困難と判断し、2001年に高圧電力用電線事業を切り出して、日本の大手電線・ケーブルメーカーと50対50のJVを設立。しかし、2014年には先方の持ち分をすべて買い取り、完全子会社化した。
十余年で100%子会社化に至った背景について、樋爪氏は「JVパートナーの経営方針転換により、経営判断や設備投資に遅れが生じていました」と説明する。JVを設立して以降、環境変化によって電力市場の潮目が変わる中、回復の波に乗れない危機感があったという。
意思決定のボトルネックが解消された効果は著しく、営業力の強化、グローバル展開の加速、環境エネルギー事業におけるシナジーを実現。加えて、再生エネルギー投資の活発化によるヨーロッパや日本での直流連系線および洋上風力需要の拡大、国内電力の更新需要が好材料となり、近年は売上げ・利益とも大幅に拡大しているという。そしてこの事例に絡めて、樋爪氏はこう付け加えた。
「当社会長の松本正義は、『経営環境は数年でガラリと変わる。売上げや利益などの数字だけでは事業の将来性を判断できない場合が多い』と、あるインタビューで答えています。『選択と集中はしない』という方針は、この言葉にも通じるのです」
伝送デバイス事業も同様の成功事例の一つで、「掛け算の事業統合」の好例に当たる。
ITバブル崩壊後、特にPHS関連の電子デバイス事業が低迷したことを受け、同じ経営課題を抱えていた富士通関連会社と50対50のJVを2004年に設立。事業体制の強化を図ったが、2008年のリーマンショックによって再度の事業再編を余儀なくされた。
当時、富士通がハードウェアからソフトウェアに事業の舵を切っていたことから、JVの完全子会社化を決断。その際、既存の光デバイス事業も新会社に統合した。これについて、樋爪氏は「JV設立で獲得した富士通の半導体技術を活用し、さらに発展させる狙いがあった」と背景を説明する。
シナジーによって事業体制が強化されたことで、同事業は成長軌道に復帰。昨今の活発なデータセンター向け需要を着実に取り込めており、「特に直近の伸びが著しい」という。
講演後、参加者からJVから始める狙いを問われた樋爪氏は、「事業環境が非常に厳しく、撤退という選択肢もある中で、顧客からの要望や将来の需要回復への期待から、同様に苦しんでいる同業他社と手を組んだ」と説明。「苦肉の策が結果的にうまくいったケースをご紹介したが、失敗も多々あります」と語り、激変する市場へ対応することの難しさをにじませた。
選択と集中は「五方よし」に資しない──。住友電工のM&A戦略には、約130年の歴史を刻んできた伝統企業の智慧がある。