住友電工──「五方よし」に基づき
「選択と集中」はしない

 1897年創業の住友電気工業は、祖業の電力ケーブル製造から派生して多角的に事業領域を拡大してきた。現在、世界約40カ国に従業員30万人と400社を超えるグループ会社を擁し、連結売上高は約4.6兆円(2024年度)、うち海外売上高比率は62%を占める。日本を代表するグローバル企業の一社だ。

 同社の事業は「環境エネルギー」「情報通信」「自動車」「エレクトロニクス」「産業素材」という5つのセグメントで構成され、なかでも自動車向け製品(ワイヤーハーネスなど)が売上高の約57%を占める。多様な産業資材を供給するB2Bビジネスを展開し、2022年策定の長期ビジョン「2030ビジョン」では、成長を牽引する「エネルギー」「情報通信」「モビリティ」を注力3分野と定義。いずれも脱炭素社会や情報化社会の進展に寄与する領域だ。

  その根底にあるのは「公益重視の基本思想」だと、同社上席常務執行役員の樋爪謙一郎氏は語る。住友家初代・住友政友が遺した商いの心得「文殊院旨意書」を源流として深化してきた「住友事業精神」である。

  「住友の事業は、みずからを利するとともに国家を利し、社会を利する事業でなければならない、という考え方です。こうした経営哲学は、2019年にアメリカの経営者団体が宣言した『ステークホルダー資本主義』に通じます。2023年に公表した中期経営計画では、顧客、従業員、取引先、地域社会、株主・投資家に成長の成果を分配・還元していく『五方よし』の方針を掲げ、持続的な企業価値の向上に努めているところです」(樋爪氏)

未来のコア事業をどう見つけるかM&Aによる事業基盤強化の要諦住友電気工業 上席常務執行役員
樋爪謙一郎氏
Kenichiro Hizume
1992年住友電気工業に入社後、一貫して経理財務部門でキャリアを積む。工場経理、財務部を経て、1996年から2001年までアメリカ財務センター・金融子会社に出向。帰国後、財務部から経理部に移り決算業務に従事。海外子会社の決算期統一プロジェクトも手掛けた。2019年経理部長、2021年執行役員、2023年より現職。経理・財務・資材・物流部門を所管。

 銅の精錬をルーツとする同社では、電線の技術から派生して多様な技術を開発・事業化する「テクノロジーツリー経営」を行っている。

 事業の多角化は、電線部門が全盛だった1960年、「非電線事業を売上げの半分に」という北川一栄社長(当時)の号令で始まった。その経営判断に狂いはなく、高度情報化社会が到来した1970〜80年代には光ファイバーが、2000年のITバブル崩壊以降は自動車のワイヤーハーネスが稼ぎ頭へと成長した。

 これについて、樋爪氏は「当社では『選択と集中』はしません。事業の絞り込みは、環境変化への脆弱性を高めるリスクになるからです」と説明。一方で、「事業の新陳代謝」を積極的に進めているという。

 「『各事業部のROIC(投下資本利益率)目標』『事業部のWACC(加重平均資本コスト)』『全社ROIC目標の50%』という3つのベンチマークと比較して、ROIC水準が不十分な事業については、撤退を含む事業構造改善活動を強化しています」(樋爪氏)