財務省「降臨」で広がるパブリック活用
導入1000社突破も進まぬ「有料化」の壁

 カルビーが利用しているのが法人向け有料プラン「note pro(ノートプロ)」だ。独自ロゴやドメインの設定、AIや専門スタッフによるコンテンツ制作支援、成果測定のための分析機能などを備える。料金は月額8万円(税別)とオプション料のサブスクリプション形式で、19年のサービス開始以降、有料会員は毎期増加し、導入企業数は1000件を突破した。

 最大の強みはnoteの集客力だ。MAU(月間アクティブユーザー数)8660万人超に向けて情報発信できるインパクトは大きい。さらに昨秋、調査機関からnoteの記事が検索エンジンのAIに参照されやすいという結果が公表されたことで、SEO(検索エンジン最適化)・AI検索の対策としての注目度も上昇。プレスリリースやIR(投資家向け情報提供)では伝えにくい、商品開発や事業展開の「ストーリー」を届ける場として活用する企業が増えている。

 用途は広報・ブランディングにとどまらない。NTTドコモは採用向けに社員インタビューを発信。内定者アンケートでは、インターンシップや説明会、内定者向け懇親会を上回る影響力を示した。文藝春秋は「WEB別冊文藝春秋」として月額800円の読み放題サービスをnote上で展開し、メディアとして活用している。

 一方で課題もある。法人アカウント数が6万件を超える中、有料のnote pro導入は2%未満にとどまる。多くの企業が無料でアカウントを開設するものの、記事投稿を継続するハードルは高い。コンテンツ制作には企画立案から取材、執筆、社内調整まで相応の工数がかかり、片手間で運用できるものではないためだ。結果として更新が途絶える企業も少なくない。

 継続的に記事投稿を行う体制を構築できなければ、有料版への投資判断は難しく、結果としてnoteの収益化へのハードルは高まる。noteは有料版ではAIによる執筆支援などにより効率的に記事を作成する機能を付加するなど対策をしている。

 高柳圭note pro事業部長は「無料で始めても続けるのが難しいという企業がある。無料版と有料版の違いの質問も多い。AI時代の発信ツールとしてnoteへの需要は高まっており、営業人員を増やしてさらに成長ペースを加速させたい」と語る。

note proの現状を説明する高柳圭note pro事業部長note proの現状を説明する高柳note pro事業部長

 企業だけでなく、省庁・自治体の参入も加速している。

 26年2月、財務省がnoteのアカウントを開設。片山さつき財務相は初投稿でこう記した。「財務省から発信する情報が難しくて分かりにくかった面が、正直言ってあると思います」。SNS上では「お堅い財務省がnoteに降臨」と話題を呼び、「スキ」は1万回超。報道機関も一斉に取り上げた。今後は月1~2回のペースで政策の背景や考え方を発信していく予定だ。

 総務省や厚生労働省なども既にアカウントを持ち、中央省庁・独立行政法人は計44件に上る。公共機関向けの導入を支援するnoteディレクターの青柳望美氏は「省庁向けの勉強会を開くと、毎回多くの方が参加する。政策の背景を届けたいという情熱をすごく感じる」と話す。

 地方にも波が及ぶ。25年12月、沖縄県教育委員会と管轄の県立学校84校がアカウントを一斉開設。noteをホームページとして利用するという教育機関として全国初の取り組みで、学校行事や日々の活動を発信している。25年12月末時点で学校1481件、自治体245件がnote proを利用中だ。

 ただ、利用基盤の拡大に対し、収益化は追い付いていないように映る。note proのセグメント売上高は6.6億円と全体の16%にとどまり、法人アカウント6万件、公共機関1770件という広がりと比べると見劣りする(下表参照)。

 背景には、企業の多くが無料版にとどまり、有料版への移行が進んでいない現状に加え、公共機関には無償で提供していることがある。ユーザー数の増加が必ずしも売り上げ拡大に直結しない構造となっている。

 今後は、有料版の導入企業をどこまで増やせるのか、価格引き上げによる収益改善に踏み込むのか、あるいは公共分野の位置付けを見直すのか。拡大したプラットフォームをどのように収益へと結び付けるかが、成長の持続性を左右する。

 noteという巨大プラットフォームを舞台に、外部企業によるビジネスも活況を呈している。

 SNSマーケティングのコムニコは、InstagramやX、YouTubeなどと並ぶSNS戦略の一角としてnote運用支援に注力する。担当者は「長文コンテンツはファンに深く刺さる。ストック型のnoteは時間がたっても読み返され、XやFacebookと組み合わせれば波及効果が生まれる」と語る。

 大手広告代理店の博報堂もブランド戦略の一環として、クライアントへのnote活用支援を重視する。同社のブランド支援担当者は「noteは炎上しづらく、また、熱量と長さのある、説得力のある投稿が多い。見た方に行動を促せる投稿になる可能性がある」と説明する。

 個人向けに特化したビジネスも育っている。goodbuffは売り上げの9割以上がnote活用支援のコンサルティング収入で、主力サービスは個人向けの「パーソナル編集者」。noteに記事を投稿したい個人を中心に、テーマ選びから発信方法まで半年間伴走する。

 同社の水野圭輔社長はnoteでディレクターとして、企業のオウンドメディアの運営をサポートしてきた。22年に独立して以降、受講生は500人を突破。大手出版社の目に留まり書籍化に至った受講生も出た。

 「何かを書きたい、伝えたいという人は多い。でもnoteに書くのは、人通りの多い場所に出ることなので心が折れやすい。筆者の引き出しを開ける作業にやりがいを感じている」と水野社長は話す。

「長文」がファンを動かす新・宣伝術
周辺ビジネスに潜む“質の低下”

 一方で、noteビジネスの拡大に伴い、その周辺には玉石混交のプレーヤーも集まり始めている。

 noteコンサルや運用代行を掲げる事業者が増え、フォロワー数拡大などの実績を前面に打ち出すケースも目立つ。だが本来、企業や個人の発信力を高めるためには、コンテンツの中身そのものの質を高める支援こそが求められるはずだ。にもかかわらず、実際には「いかにバズらせるか」「どうすれば短期間で稼げるか」といった手法に重きを置いた、情報商材的なノウハウを提供する動きも広がっている。

 こうした傾向は他のSNSでも見られるが、noteにおいても例外ではない。結果として、独自性や一次情報に乏しい、表層的なコンテンツが量産されるリスクも指摘される。プラットフォームの成長と引き換えに、発信の質が低下する可能性にもつながっている。

 個人の発信の場として始まったnoteは、今や企業や省庁、自治体まで引き寄せられ、日本有数の情報インフラへと進化した。周囲では多様なビジネスが立ち上がり、「note経済圏」は拡張を続けている。その持続的な成長のためには、コンテンツの質と収益モデルの両立が問われる局面に入っている。

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Key Visual&Graphic by Kaoru Kurata

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