地域新聞社 上場廃止危機に挑む1000日#5Photo:PIXTA

「紙媒体のフリーペーパー発行会社」からの脱却を掲げ、事業構造の転換を進める地域新聞社。紙媒体の発行で培ってきた配布網や読者データをアセット(資産)と位置付け、M&Aや生成AI関連など、従来とは異なる新規事業を次々と打ち出している。もっとも、こうした分野はいずれも社内に前例がなく、ノウハウも乏しい。そこで同社が選んだのが、外部の専門知見を経営に組み込む戦略だ。リスク管理、生成AI、マーケティングなど、ビジネスの第一線で活躍する6人の専門家で構成するアドバイザリーボードを設置し、新規事業推進のエンジンとして活用している。長期連載『メディア興亡』内の特集『地域新聞社 上場廃止危機に挑む1000日』では複数回にわたり、地域新聞社の1000日に密着。第5回の本稿で、外部知見を組織の「実行力」へと変える挑戦を追う。(フリーライター 松田晋吾)

読者データを仮想空間で再現
生成AIによる次世代マーケティング

 2025年12月15日、地域新聞社の株価は上昇を続け、ストップ高となった。きっかけは同日午前、「デジタルツイン」と生成AIを活用したマーケティング技術を特許権利化したと発表したことだ。

 デジタルツインとは、現実世界で収集したデータを基に、仮想空間上に現実とほぼ同一の世界を再現する技術である。地域新聞社は、紙媒体を通じて蓄積してきた読者データを仮想空間に取り込み、生成AIが性別や家族構成、ライフステージなどから顧客の心理状態を推察。最適なマーケティング手法を提示する。

 例えば「ちいき新聞」で赤ちゃんの掲載企画を実施すれば、多数の写真が集まる。これを仮想空間に反映させると、写真の撮り方ににじみ出る価値観などからAIが母親を「ナチュラル志向」「キラキラ志向」「イベント好き」などのタイプに分類。

 写真館のマーケティングでは、手法としてダイレクトメールを選択した上で、価格訴求や装飾性などの特徴を持つ文面を母親のタイプに応じて提案することが可能になる。ライフステージの変化に応じて、七五三や成人式向けのマーケティングにも応用できる。

 紙面上では多様な企画を展開し、生活者データを継続的に蓄積できる点が、地域新聞社ならではの強みといえる。

 伝統的なフリーペーパーの発行モデルから、テクノロジーを駆使したデータビジネスへ。この大胆な転換を支えるのは、自社の社員だけではない。社内にノウハウが皆無の状態から、いかにして特許取得や海外展開を見据える事業を立ち上げたのか。次ページでその鍵を握る「外部の知能」の実態に迫る。