最短で再来年の28年入試に
御三家でサピックスを抜く可能性
(前ページから続く)その時期はというと、御三家の合格者数の推移を見れば、来年はまだ無理だと思いますが、その次の年(28年入試)以降であれば十分に可能性があると考えています。少なくとも5年以内というスパンで見れば。
――最短2年ということですか。想像以上に早いですね。ただ、サピックスなど他塾にメインで通う生徒が、早稲アカの「NN」やSPICA(スピカ。早稲アカ運営の少数精鋭型塾)にも掛け持ちで通う場合も、合格実績に含まれていますが、この点を考慮すると……。
そうですね。そのような併用をしている生徒ももちろんいます。ですので、サピックスさんを(実数ではなく)本当の意味で追い抜くには、まだまだ時間はかかると思っていますが。
――「本当の意味で追い抜くには時間がかかる」という部分でもう一つお聞きしますが、これだけ難関校の合格者数を伸ばし、サピックスに迫っているにもかかわらず、ダイヤモンド編集部の分析による早稲アカの生徒の合格先の平均偏差値とサピックスのそれとの差は、あまり変わっていません。平均層、ボリュームゾーンの今後の底上げについては、どのような戦略を立てていますか。
サピックスさんは実績が落ちてきているといわれつつも、やはり当然ですが首都圏における中学受験塾の第一人者であることは間違いないですし、底力もあります。
当然、このまま実績が下がっていくことをよしとはされていないでしょうし、(昨年に始動した)「サピックス2030プロジェクト」を見ても、これからさまざまな手を打ってくると思います。
その動きを踏まえつつ、どうすれば私たちの受講生全員に難関校の合格を勝ち取るチャンスを与えられるのか、その挑戦を続けます。
ただし、それぞれの子どもの学力レベルに応じた「わが子をこの学校に行かせたい」という保護者の思いを私たちは尊重してやっていますから。仮にそのレベルが中位校であったとしても、そこの受験をしっかりと応援していこうというスタンスです。(早稲アカの平均学力の)値が下落しているならば心配ですが、おおむね維持されているということであれば、それぞれの学力レベルに応じた志望校選びの方が重要だと考えています。
――サピックスもテコ入れをしてきたことに関連して、確かに、かつてのサピックスではあまり考えられなかったような、例えば家庭学習のチェックがより厳しくなったなどの声が聞こえますね。
もともとサピックスさんは「塩対応」とか「冷たい」とかいわれたりすることもあったかと。確かに、少し前まではそれでよかったのだと思うんです。つまり、かつての保護者は、「塾なのだから四の五の言わずにとにかく成績さえ上げてくれればいい」というドライな考え方が大半だったと思いますし、それ故サピックスさんが選ばれてきた。
しかし、だんだんと保護者の考え方が変わってきて、今はパラダイムシフトが起きていると言っていい。それを加速させた理由もコロナ禍だったと思いますが、コロナ禍以降、塾に対して「子どもをせっかく塾に、それも多感な時期に長時間預けるなら、成績をアップさせるだけではなく、将来、自立して幸せに生活できるような能力も身に付けさせてほしい」というふうに変わってきたように感じています。昨今、非認知能力が大事だといわれますが、そうした能力も大切にしてほしい、という保護者がどんどん増えてきています。
私たちは昨年、創立50周年を迎えましたが、50年前の創業当時から「本気でやる子を育てる」という教育理念を掲げ、愚直にやり続けてきました。進学塾ですから、当然成績を上げる、志望校に合格させるということに全力を尽くします。しかし、受かればいい、成績が伸びればいい、とだけ思っている親御さんは少数で、その先にはわが子の幸せへの願いがあると思うのです。ずっと「本気でやる子を育てる」ということを、どうしたら具現化できるかにこだわってきたのは、そんな保護者の方々の思いに応えたいからです。
社内では、成績を上げ志望校に合格させることを「本来価値」、それ以外の本質的な部分を「本質価値」と呼んで、二つの価値を両輪で提供していこうと言い続けています。その早稲田アカデミー独自の高い付加価値を「ワセ価値」と呼んでいますが、これが保護者や生徒に受け入れられるようになってきているのかなと。
その証左は、最近、特に低学年からのお問い合わせが増えていること。塾選びの際の第一候補として、これまでであればサピックスさんを選ばれていた保護者の方々が早稲アカを選ぶ比率が、高まっていると感じますね。
サピックスから早稲アカへの
「転塾」が増えている
――低学年の「初めての塾」として選ばれているということですが、中学年や高学年におけるサピックスからの「転塾」も増えているのでしょうか。
ええ。以前は3年生まで早稲アカに通い、(受験勉強が本格化する)4年生になると「ありがとうございました。これからはサピックスに行きます」というケースも多かったですが、それが逆になってきましたね。今、サピックスさんからの転塾がかなり増えてきているように感じます。
――おっしゃるように、コロナ禍が早稲アカとサピックスの戦略のターニングポイントになり、サピックスは当時、新規の生徒数を絞り、その受け皿となったのが早稲アカだと認識しています。
そうですね。そういう側面はあったと思います。
――これは戦略的に狙ったものだったのですか。
いえ、当時は一日一日をどう乗り切るかということで精いっぱいで。コロナ禍をポジティブに捉えて戦略に落とし込むなんて、当時は全然考えられませんでした。ただ、結果としてとにかく私たちは学びの場を提供し続けたい、学びを止めてはいけないという思いでしたね。ちょうど新学期の立ち上がりの時期でしたから、新規入塾者がストップし、問い合わせの手続きも止まり、前年比で生徒数も4月にガクッと落ち込んで……。実は、私が社長に就任した初年度だったのです。今までコツコツと増収増益できたのに、自分が就任したときに業績が下がりかねない状況になってしまった。
もしコロナ禍がなければ増収増益にすごくこだわったかもしれませんが、状況が状況でした。保護者と子ども、そして講師も皆、本当に不安で仕方がない状況でしたから、ある意味、採算は度外視して、とにかく学びの場を提供することに徹しようと。先ほど話したように、どこの塾よりも先駆けて双方向のオンライン授業をやりましたし、対面授業が復活してからもデュアル形式でオンライン授業への切り替えがすぐにできる選択肢を残しており、今も継続しています。風邪気味だとか部活で遅刻してしまうといった際や台風などの悪天候の際など、うまく活用してもらっていますね。
――低学年の問い合わせが増えている点について。低学年の取り込みの強化は、早稲アカの特徴の一つだと思いますが、昨今、中学受験塾通いの低年齢化がいわれる中、1~2年生からの塾通いによる効果はどれほどあるのでしょうか。
やはり1年生の段階からスタートされているご家庭は、そもそも受験に対する意識が非常に高いですよね。ですから統計的には、1~2年生から在籍をして御三家レベルに合格する生徒の比率は、3年生からスタートした生徒と比べるとはるかに高い、というデータはあります。
ただ、低学年からの通塾を(企業戦略として)強化すべきかどうかという部分については、今は少し微妙だと考えています。
これもコロナ禍が大きく影響するのですが、コロナが流行した際、多くの保護者が「公立の学校は何もしてくれない。私立に行かなければ」となりました。今まで私立中高一貫校なんて考えたことがなかったご家庭も、「サピックスには早めに入っておかないと空席がないらしい」となり、1~2年生の入塾者が一気に増えました。あのとき、うちも四谷大塚さんも同じように1~2年生の生徒数が20%くらい増えたんです。ところが、2年ほどしたら潮が引くようにその数は減っていきました。
これはサピックスさんも四谷大塚さんも同様で、どこの塾も減ってしまった。その理由は、「一定の学力と一定の体力がなければ、中学受験を真剣には目指せない」「3年生から4年間勉強すれば十分間に合う」といった保護者の考え方の変化で、コロナ禍以前のもともとの形に戻ったのだと思いますね。
――一方で、栄光ゼミナールが昨年の秋に未就学児の中学受験コースを新設しましたが、その戦略のロールモデルは早稲アカだと聞いています。
どうですかね。なかなか(未就学児を中学受験に)直結させるのは難しいと思います。私たちも1~2年生については、基礎学力を身に付けさせることや、思考力と同時に楽しく勉強する、あるいはきちんと机に向かう学習習慣を身に付けさせるといったことに重きを置いています。その段階の授業が、密に御三家レベルを目指すことと連動しているとはそれほど思っていません。だから、さらに前倒しして未就学児から始めるということは難しいのではないかと思いますね。
――早稲アカがそこに参入していくことは……。
中学受験を主目的とした幼児教育への参入というのは、まずないと思います。
――カリキュラムや独自教材など、早稲アカの最大の武器は何だと考えていますか?
やはり、一番は「NN」です。それぞれのコースの先生が本当にこだわってやっています。ちなみに、私は「NN」の初代担当者でした(笑)。当時の創業社長(須野田誠氏)から「早稲田実業・早稲田中のクラスをつくりたいからおまえが責任者だ」と言われて。現在は御三家や早慶付属など12コースまで増えましたが、最初のコースを任されましてね。
特定の学校の合格者を出したいとなると、その入試問題の研究を集中してやります。私は30年以上、早稲田実業コースを担当し続けましたが、早実なら何でも知っているという状態になります。早実の算数(の入試)を作っている先生がどういう人か、数学のどの領域を研究しているか、中学の定期テストでどういう問題を出しているか、そういった情報まで全部研究します。
入試問題を研究してテキストを作り、模擬試験も「入試本番より早実らしい問題」を作るくらいの熱量で作成します。早実だけでなく、開成なら開成専門のスタッフが10年、20年とやっていますから、そこで練りに練られたテキストや模擬試験、そして本番直前の「そっくりテストゼミ5本勝負」など、合格率を確実に高めます。
そんな非常に魅力的なコースを提供しているため、他塾からも含めて多くの生徒がこぞって受講してくれています。同じ志を持つ子どもたちが集まって切磋琢磨する環境も大きいですし。早稲アカのカリキュラムや教材の特徴は、この「NN」に集約されるのかなと思いますね。
Key Visual by Kaoru Kurata, Kanako Onda



