昨今、部活動や保護者対応に追われる学校教員よりも人気が高いといわれる学習塾講師。市場拡大により塾講師の争奪戦が激しさを増す中、大幅な賃上げに踏み切る大手塾も出てきた。だが、塾講師の実際の年収は、合格実績をはじめとするインセンティブによって大きく変わるという。特集『賃上げの嘘!本当の給料と出世』の#15では、大手塾の中でも実力主義とされる早稲田アカデミー講師の給与の実態に迫る。(ダイヤモンド編集部 宮原啓彰)
少子化でもコロナ禍で市場拡大
大手塾は人材確保のため賃上げへ
少子化にもかかわらず、コロナ禍を追い風に市場が拡大した学習塾業界。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によれば、受講生数はコロナ前だった2019年の1295万人から、23年の1441万人へと増加し、売上高(受講料収入)も同期間で4163億円から5458億円へと1.3倍に伸びた。
これに伴って激しさを増しているのが、塾講師の奪い合いだ。優秀な人材を確保するため、大手塾では賃上げや初任給の引き上げが起きている。
講師の95%が正社員という神奈川県の学習塾大手のステップは、24年度に3年連続となる賃上げを実施。全社員の月額給与を1万5000~2万円引き上げた。「教育産業における競争力の源泉は人的資源。教師の待遇を学習塾の中で全国トップクラスの水準にすることで、優れた人材を引き寄せたい」と同社は言う。
また、学習塾大手の早稲田アカデミーも23年3月から24年4月にかけて、ベースアップと定期昇給を合わせて、正社員1人当たりの基本給を22年度比で平均約10.6%上昇させた。「生徒や保護者のニーズに応えるためには、教える技量が高く、人格的にも優れた多くの講師が必要だ」と、早稲アカは説明する。
だが、こうした人材の争奪戦に向けた賃上げ競争が起きる一方で、「塾講師の実際の年収は、ベースアップよりも実績に応じたインセンティブによって大きく左右される」と塾関係者は口をそろえる。
例えば、多数の校舎を抱える大手塾において、校長(教室長)を評価する三大指標といえば、「生徒獲得数」と「退塾数」、そして有名校への「合格実績」だ。その目標達成にインセンティブを支給することで、同じ役職や年齢でも年収に大差がつくという。
そこで次ページでは、他の大手塾に比べて実力主義が強いとされる早稲アカを例に取り上げ、塾講師の年齢層別、役職別の年収と出世ルートを掲載する。さらに、早稲アカ講師の年収を左右するインセンティブについて、その金額だけでなく、中学受験と高校受験で「高ポイント」となる具体的な学校名を含めて明らかにする。学習塾ならではといえる独自の評価基準が分かるはずだ。