市場の成熟化と共に多様で多彩な消費者が登場したことで、市場の“解読”は難しくなった。そうした中、革新的な製品を生み出す手法として登場したのがオープン・イノベーションである。技術経営の探究を一方の軸とする東京理科大学専門職大学院の教授陣が、現代のビジネス課題を講義する【LECTURE Theater 2013】第3回は、オープン・イノベーションに潜む数々の課題を見極めつつ、「クローズド・オープン・イノベーション」という新たな概念を提示した西野和美准教授に、日本産業再生の戦略について聞いた。

光明に思えたオープン・イノベーション

 日本産業の競争力を強化するための核心的な取り組みの一つと言われてきた「オープン・イノベーション」が、期待ほどの成果を生み出せないでいます。

東京理科大学専門職大学院
イノベーション研究科 准教授
西野和美(にしの・かずみ)
一橋大学商学部卒業。富士写真フイルム勤務を経て、一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。2002年より東京理科大学経営学部講師。2006年から現職。専門は、経営戦略、製品開発マネジメント、ビジネスモデル。共編著に『日本型ビジネスモデルの中国展開』『イノヴェーションの創出』(いずれも有斐閣)、『ケースブック 経営戦略の論理』(日本経済新聞出版社)など。

 例えば、経済産業省の『我が国企業の研究開発投資効率に係わるオープン・イノベーションの定量的評価等に関する調査』(2010年度)では、多くの企業がオープン・イノベーションを意識しているものの、積極的でなく自前主義の研究傾向が強いことが明らかになりました。そのため同省では、2011年度に追加調査を実施し、オープン・イノベーションの環境が整わない理由を探ったほどです(図表1参照)。

 オープン・イノベーションとは、イノベーションに関する世界的権威であるヘンリー・チェスブロウが、2003年以降に発表した一連の著作で明らかにした概念で、「企業内部と外部のアイデアを有機的に結合させ、価値を創造すること」と定義されています。チェスブロウは、従来の研究と開発が一体となり、その過程で徐々にスクリーニングされて最終的に上市される製品が決まるという研究開発プロセス(クローズド・イノベーション)の限界を指摘した上で、素早い商品化のためには、自前の研究開発分野を最小限にし、外部の知識を最大限に活用すべきであると説きました。

 その具体的な成功例としては、IBMやP&Gの取り組みが喧伝されました。IBMは、企業向けソフトウェアの開発で独立系のソフトベンダーと連携し、世界各地のビジネス慣行に対応した製品開発体制を構築しました。またP&Gは、2000年にCEOに就任したアラン・ラフリーが「50%のイノベーションは外部から」と宣言し、外部の優れた技術や製品アイデアを探して社内に取り込む体制を整えました。その結果、外部の技術を利用した製品開発案件は、2000年の15%から2008年には40%を超えるまでになったと言います。