ケイレツを超える
クローズド・オープン・イノベーション

 日本産業はかつてのような革新的な製品を生み出せず、相変わらず頭を抱えていますが、私は、それほど悲観すべきではないと考えています。オープン・イノベーションに対する一方的な期待や勘違いなどがあるにしても、薄皮が一枚剥がれると一挙に傷口が回復するように、迷いの中から光明を見出せると感じるのです。

 たしかに日本の産業、特にメーカーにはアップルのようなエモーショナルな製品づくりは苦手です。製品に込められるエモーショナルな要素は、共有しにくい組織風土があるからです。しかし一方で、「きちんと」とか「おもてなし」などという日本らしさをわからない人はいない。これは、日本産業が持つ、紛れもない競争優位です。

 製造現場における5S、QC、ZDなどの活動は、日本的な感性に裏打ちされたことで驚異的な生産効率を生み出しことを忘れてはなりません。おもてなしは柔らかさや爽やかさといった概念に拡張でき、トータルな価値を備えた製品づくりの基盤になりえます。

 その上で、オープン・イノベーションの真髄を取り込むには、私は「クローズド・オープン・イノベーション」という考え方が必要だと考えています。つまり、限られた、信頼できる相手との間でオープンに協働を進めるのです。

 信頼できる相手とは、もちろん、すでに何らかの取引実績や提携実績がある企業です。市場原理で相手を選ぶのではなく、「顔見知り」のメンバーと手を組むのです。

 読者のなかには、「それはケイレツと同じではないか」と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、自動車産業で見られるようなケイレツとは明らかに異なります。

 ケイレツにおける企業間関係は、自動車メーカーを頂点とした、ある程度固定的な役割の下でヒエラルキーを形成しているのに対して、クローズド・オープン・イノベーションにおける企業間関係は、創り出そうとする価値やビジネスモデルによって取引相手や取引内容を柔軟に変えられるのです。

 すでにそうした取り組みがあります。例えば、住友スリーエムでは相模原事業所内に「カスタマーテクニカルセンター」を開設し、そこに同社の技術の一同を開示しています。接着や接合、フッ素化学などの「テクノロジー・プラットフォーム」と呼ばれる基礎技術や代表的な製品を展示し、顧客が製品を実際にテストできるブースも設けています。

 つまり、モノを介して顧客とコミュニケーションできる場を設け、顧客から他用途への素材の利用法などの新たなアイデアを取り込もうというのです。しかもセンターは、誰もが利用できるのではなく、社内の承認を得た顧客しか入れないというのがミソです。パートナーとして信頼しうるかなどを精査した上で、クローズドでオープンなイノベーションの場を展開しているのです。

 同様の動きは、東レや三菱化学、日新製鋼などの素材メーカーにも広がっています。

 社内と社外のアイデアを結合させて新たな価値を創造することの重要性に気がついていない企業はありません。今問われているのは、それをどのように実現するかという知恵と戦略です。オープン化の流れを踏まえれば、従来のケイレツとは違う、クローズド・オープン・イノベーションというアプローチは、一つの可能性を示すものと考えています。

〔PR〕