グローバルな製品やサービス覇権をめぐって、知的財産権の訴訟合戦が激化している。判決如何では事業活動にも重大な影響を及ぼすグローバルレベルの知的財産権、特に特許訴訟の現状と背景はどのようなものか。2014年4月8日、米連邦巡回区控訴裁判所首席判事やドイツ連邦最高裁判所部総括判事、日本の知財高裁部統括判事、さらに企業の知財参謀など特許訴訟の最前線にいる実務家たちが東京理科大学MIPの国際IPセミナーに集結し、「グローバル時代の特許訴訟」を検証した。
アメリカの裁判制度を悪用する
パテント・トロール
アメリカでは、特許訴訟の控訴審として専属の管轄権を有する連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)が1982年に設立され、2011年9月に先発明主義から先願主義へというコペルニクス的な転回を果たした「米国発明法」(AIA)に大統領が署名した。この間、特に2010年以降、アメリカにおける特許訴訟件数は飛躍的な増加を続け、2013年にはついに6000件を超えた。日本企業の例としては、例えばソニーの特許訴訟(応訴数)も増加傾向にあり、2013年会計年度は35件を超えている。
VP知財センター長
守屋文彦氏
振り返れば、2007年には「マーキング・トロール」と呼ばれる特許の虚偽表示をネタに提訴する人たちが登場し、2009年にはライセンシーの特許使用料をめぐる最高裁の「MedImmune判決」があり、全般的に特許権者の保護を弱める流れが出ていた。そこへ、特許を実施する製造や販売は行わないものの、特許侵害を提訴して賠償金を得る知財ギャング、いわゆる「パテント・トロール」(Patent Troll)が出現する。
ソニーの特許訴訟も、2007年と2008年は年間20件弱だったが、MedImmune判決後の2009年には30件を突破した。AIAが成立して一度に複数社を被告として提訴することができなくなったことなどから、応訴数は一時的に減少したが、それでも訴訟数は再び増える傾向にある。米政府の報告によればパテント・トロールによる訴訟の割合は2010年の29%から2012年には62%へと3倍も増えている。
パテント・トロールは、すでに金融商品化している。投資家から金を集めて標準必須特許を買い漁り、製造業者や代理店、小売店などを被告に特許侵害訴訟を提起する。早期の和解を働きかけて資金を回収し、投資家には30%以上の利回りで資金が返還されている。被告側は、反証材料の整理や法廷闘争のための時間や資金の負担が重く、結局、和解に応じて早く手仕舞いしたくなる。そこがパテント・トロールの狙いで、アメリカの裁判制度を悪用したものである。
「個人的には、中小型と超大規模型に二極化してきているように感じる。またAIA施行後も特許訴訟の増加傾向に大きな変化はないとはいえ、訴訟地の移送申立(Motion to transfer Venue)には変化が出てきている。テキサス州やデラウェア州など、原告に有利な判決を得やすい州で提訴するフォーラム・ショッピングに大きな変化はない。しかし一方で、AIA施行後は、被告の訴訟地移送を求める申立を認める件数が増加している。この点は評価してよいだろう」(守屋文彦氏/ソニー株式会社VP知財センター長)