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東京理科大学専門職大学院イノベーションレビュー

世界覇権をめぐる特許訴訟の衝撃

2014年5月29日
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国際標準特許のFRAND評価のために
情報開示の充実を

 米国連邦巡回区裁判所のRandall Rader首席判事によれば、「パテント・トロールは、まさに特許制度の濫用」である。アメリカでは製造物責任を追及する権利濫用が少なくないが、特許分野は特に濫用が激しい。それを成り立たせているのが、200万ドルから300万ドルといわれる高額な訴訟費用だ。その額を前に、和解してしまおうと考えるのも無理はない。パテント・トロールは、1つの特許をネタに数十社を提訴し、たとえ1社当たりの和解金が少額でも暴利を得ている。

米国連邦巡回区裁判所
首席判事
Randall Rader判事

 オバマ政権は2013年6月に、パテント・トロール対策を打ち出した。特許侵害を訴える者が、真の意味で「利害関係者」であるのかを示し、特許を侵害しているとされた側に示される「要求書(デマンドレター)」も開示させ、さらに悪質な訴訟では敗訴側、つまり特許侵害を訴えたが認められなかった側に勝訴側の弁護士費用負担を命じる裁量権の拡大を盛り込んだのだ。これについてRader判事は、「訴訟費用の敗訴側負担は、個人的にはよいアイデアだと思うが、費用の回収効果には限界があるようにも感じている」と言う。

 いずれにしても、技術に対する適切な価値評価ができていない現状を克服しなければ意味がない。トロールかトロールでないかを判断するのは判事であり、だからこそ判事には、トロールのトロールたる訳を明確かつ合理的に判断できる技術的な知識が不可欠であり、それによって訴訟費用を安く設定したりできる。訴訟費用が現在の10分の1になれば、パテント・トロールは生きていく土壌を失う。すでにこうしたケースが起きているという。

 さらにRader氏は、アメリカの特許訴訟をめぐるもう1つの重要なテーマである国際標準必須特許の技術評価と情報開示について解説した。さまざまな分野で活用される標準必須特許は、特許を認められた「革新技術」としての性格と、標準として認められた「標準技術」としての性格の切り分けが難しい。つまり、革新技術によって生み出された価値と、標準化によってもたらされる価値を明確に区別できないということだ。そこを突く形で、標準必須特許の所有者が特許侵害訴訟を提起する。アメリカの西部劇には、銃を突きつけて「ホールドアップ!」と叫ぶシーンが必ずあるが、標準必須特許を持つ者が、本来の価値以上の金銭を要求するのが「ホールドアップ」だ。

 価値の切り分けや見極めに重要になるのが特許権者の「FRAND」(Fair, Reasonable, and Non-discriminatory)である。つまり、ライセンス提供にあたり、公平かつ合理的であり、非差別的でないということだ。

 「しかし、FRANDが特許訴訟の妙薬だとも言えない。FRANDのライセンス料が相手から不合理に拒絶される「ホールドアウト」の時には、特許の使用差し止めも必要になるかもしれない。その際、ポイントになるのが、FRANDのライセンス料が市場価値として妥当であるかどうかだ」(Rader判事)

 ところが、多くのライセンス契約では、その対価などは非開示になっており、判断ができない。特許の市場価値を正当に評価し、「ホールドアップ」でも「ホールドアウト」でもない真に合理的なライセンス料を認定するには、この情報の開示が不可欠であり、市場価値が正当に評価できればFRANDについても真性の評価ができることになる。市場情報へのアクセス力を強めて評価を公正にする仕組みと、技術評価ができる判事の能力の育成が必要になっている。

 

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いかにして技術から新しい価値を生み出すのか。また、その成果をいかに正当に確保し、配分するのか。東京理科大学専門職大学院のMOT(技術経営専攻)とMIP(知的財産戦略専攻)には、教員・院生を問わず多様な人材が集い、現実の課題に基づく視点から、イノベーションを実現するための叡智が日々蓄積されている。

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