FRAND評価の具体的手法の確立を急げ
デジタル製品では現在、「特許権の技術価値の希薄化」という現象が猛スピードで進行している。例えば、カメラにおける関係特許の数は、1971年の製品では100件程度だったが、2012年に発売されたデジタルカメラでは1万件を超えている。ワイヤレスやUSB、画像保存方式などで国際標準特許を多く導入するようになったからだ。
国際標準の策定と標準必須特許(SEP=Standard Essential Patent)の動向を知る一例として、画像圧縮技術の国際化の流れを振り返ると、H.262の時に約800件だった必須特許が、H.264では約2200件に増えている。また、標準化審議で会員から提出される寄与文書(寄書)数は、H.264では2450通だったが、最新のH.265では4610通に増えている。つまり、デジタル技術の進化はわずかな改良の積み重ねであり、それぞれの特許は狭い技術範囲とわずかな技術的な効果しか持ちえていない。
通常の特許の差止請求では、請求者は相手が特許を侵害しているかどうかを調べるために製品の分析が必要だが、SEPの差止請求では、相手が侵害しているかどうか製品を分析する必要がない。だからこそ、標準技術を活用している事業は多大な影響を受け、消費者にも甚大な被害が発生する。
取締役知的財産法務本部長
長澤健一氏
これについて、キヤノン株式会社取締役知的財産法務本部長の長澤健一氏は、「標準必須特許による差止請求は、権利者の合理的ライセンスオファーが拒絶された場合のような一部例外を除き制限されるべきだと考えている。パテント・トロールが、SEPを濫用する形で差止請求を行うことと、ライセンス料を払わずに利益を度外視して市場で価格破壊を行う者への差止請求を行うことにはバランスの配慮が必要である」と言う。
重要なのは、標準規格技術を開発した権利者(パテント・トロールを除く)と、標準規格に準拠した製品やサービスを実施する者との間で、合理的なライセンス料による健全な利用市場が育成されることである。では、合理的なライセンス料、つまりFRANDの考え方に立ったライセンス料のあり方はどうあるべきか。
「技術の市場価値や研究開発の難易度などを加味しながら、標準規格を採用した製品やサービスの最小単位の営業利益を、標準必須特許やその関連特許の総件数で割って、特許1件当たりのライセンス料を算出してみるのも一案と考える」(長澤氏)