ビジネスの世界では顧客中心主義が言われて久しいが、医療の世界でもデジタルデータとその解析技術の躍進で、患者中心かつプロセス重視の医療の実践が進められている。「Oracle Industry Leadership2014~ 革新的ビジネスを構想から実践へ」で披瀝された岐阜大学医学部附属病院の最新事例は、ビッグデータ利活用による医療の質向上の実践と、これからの医療の展望を示唆している。
待ったなしの医療改革
~いち早く改革に着手する大学病院の手腕
大学病院は日本の医療のトップに位置し、教育、臨床、研究、3つの機能において重要な役割を担う一方で、わが国の医療をめぐる改革のうねりの中で大きな転換を迫られている。加速する高齢化、それに伴う疾病構造の変化、質の高い医療を求める国民意識の変化、地域に貢献する病院としての存続など、病院経営のあり方が問われているといってもよい。
そうした現状を踏まえ、思い切った改革にいち早く着手しているのが岐阜大学医学部附属病院だ。同病院は、600床の病床を有し、370名の医師を含む1100人の職員が日夜勤務する、先進医療の研究・開発・提供拠点である。年間延べ50万人に及ぶ患者の電子カルテやレセプト(診療報酬)など院内に眠る膨大なデータの統合・分析から、さまざまな課題をあぶり出し、医療の質向上に取り組んでいる。
また、年間4000件以上に及ぶ手術データを再手術に至るプロセス点検に活用し、再手術を30%削減するほか、病院のコストの2割を占める薬剤費に着目し、カルテや検査データの精査から年間2億円の医療費削減を果たすなど、大きな成果が報じられている。
医療情報学分野 医学部附属病院
医療情報部 教授
紀ノ定保臣氏(医学博士・工学博士)
「今後は院内の改善に留まらず、地域で複数の医療機関をまたぐ形でビッグデータを有効に活用していくことが求められています。
2014年4月の診療報酬改定は、これまでの大学病院を頂点としたピラミッド型の病院完結型医療提供体制から、地域完結型医療提供体制への移行を明確に打ち出しました。大学病院も、地域における自分たちの役割を再定義し、政策や制度の変更に柔軟に対応しながら厳しい状況の中でいかに生き残っていくかという視点で病院経営を行わなければなりません。
そうすることで、患者さん一人ひとりによりよい医療を提供していく体制と環境づくりができていきます」
そう語るのは、同病院の改革推進チームのリーダーを務める医療経済学の専門家、紀ノ定保臣教授である。