ビッグデータと「患者価値」向上
~院内での動線を可視化して時間のムダをなくす

 医療ビッグデータの利活用は、いかに患者に還元されているのだろうか。成果の一端を見てみよう。

 病院を訪れる患者数は、全体で何人、外科受診が何人、内科受診が何人、X線検査が何人、医事会計が何人……。日々蓄積されるこれらのデータは、実は多くの病院で各部署がバラバラで保有しているため、宝の持腐れとなっているという。

「リージョナルデータとして保存するだけでは、部署ごとの年間患者数や月平均患者数とその変化を見る程度です。われわれはそこから一歩踏み込んで、キーバリュー型データベースとしてこれらを処理し、患者数においてどの部署とどの部署の相関が高いかを分析し、さらに時間帯別に患者さんの動線比較を試みました(時間帯別患者動線比較)」(紀ノ定氏)

 これにより、例えばX線検査の予約を持つ患者の状況――院内にいるかいないか、どこかの診療科を受診中かフリーかなど――をリアルタイムで知ることができ、検査の“空き”をなくすことができる。患者にとっては待ち時間の短縮、病院にとっては検査マシンの稼働率向上による業務の効率化が実現するのである。

 さらにそのデータを、外来患者がある部署からある部署への移動時間に着目して解析(外来患者動線の主経路における院内滞在時間分布/センサネットワーク技術を活用した患者サービスの向上)すると、患者からの「長時間待たされている」というクレームがどこから発生しているかが見えてくる。

「外科を受診してそのまま医事会計に行く人のパターン、内科を受診してそのまま医事会計に行く人のパターンを見ると、どちらもだいたい2時間以内に8割の患者さんが会計を終えて帰っています。
 ところが、検査部→外科→医事会計というパターン、検査部→内科→医事会計というパターンでは、8割の患者さんが会計を終えるまでの院内滞在時間が2時間半から3時間かかっていることがわかりました。検査を終えて外科や内科に戻り、医師から説明を聞いて処置をして、その後医事会計に行くという動線において課題があるということです。そこを改善することが、患者さんの不満を解消する方策の1つであり実際に取組んでいます」(紀ノ定氏)

 電子カルテの導入により、1人の患者に対して、どの職種がどのような施術や検査や処方をしたかという情報が、時間軸とともにすべて蓄積される。そのデータが10、100、1000、10000、100000、1000000と集まれば、そこから共通パターンを見出し、共通の診療パターンを設計していくことができると、紀ノ定教授は言う。