世界の工場、巨大消費市場として熱い視線が注がれているのがASEANだ。この地域に進出する企業にとって、効率的なサプライチェーン構築は経営の成否を握るキーファクターであり、それをロジスティクスの面から支える物流企業の役割は高まっている。日系物流企業最大のグローバルネットワークを誇る日本通運にとっても、高い成長性を秘めているASEANは最重要地域。ASEANの地で日本型物流システムの定着を目指す『世界日通』の戦略とは――。
(取材・文/『カーゴニュース』編集長 西村旦)
ASEAN経済統合を起爆剤に
全世界で流動する貨物の約6割が何らかの形で中国・ASEANを経由している――。日通の国際物流事業を統括する中村次郎副社長は、巨大市場として成長を続けるアジアの重要性を端的にこう表現する。
特にASEANはいま、「チャイナ・プラス・ワン」という言葉がもはや時代遅れに聞こえるほどの急成長を続けている。「東洋のデトロイト」とも称され自動車産業の一大集積地となったタイをはじめ、マレーシア、ベトナム、インドネシアには数多くの日系メーカーが進出。また、最近ではより安価な労働コストなどを求め、ミャンマー、カンボジア、ラオスなどにも進出する企業が増えている。
そのASEANにおいて、さらなる躍進の起爆材となっているのが2015年までに実施される経済統合。ASEAN全体を単一市場と捉え、各国間に横たわる関税障壁の撤廃や制度統一に向けた動きが進んでいる。中村氏は「各国間の経済格差など難しい事情はあるが、流れとしては確実に統合に向かっている。この動きが加速すれば、ASEAN域内での水平展開や分業体制が進み、モノの動きがさらに増える」と見る。ベトナムやマレーシアでつくられた自動車部品がタイの完成車工場に運ばれ組み立てられる――こうしたことはすでに日常の光景だが、完全統合を果たしたあかつきにはボリュームもエリアも飛躍的に拡大していくことになる。
アジアを繋ぐ「SS7000」
そうなると、より重要になってくるのが域内物流の連結性をいかに高めていくか。この域内連結性こそが、製造業の水平分業を成功させるカギであり、ひいては現地に進出する日系企業の命脈を握っているといっても過言ではない。
日通がそのためのソリューションとして整備を進めてきた取り組みのひとつが「SS7000」だ。これは上海(S)とシンガポール(S)という2つの都市、7000キロという膨大な距離をトラックによる陸送ルートで結ぶサービスで、いわば「陸のASEAN」における動脈という位置づけ。特に中国とASEANでの生産分業の進展を見越して、数年前から整備を進めてきた。現在、SS7000のルート上にある複数の各都市間で定期運行を行っており、輸送量は着実に増えている。
「通関制度の不統一などで、国境でトラックが足止めされたり、積み替えが必要になる場合も一部であるが、インフラとしての基本的な部分はほぼ完成した。今後はこの動脈から各国内に毛細血管のようにトラック輸送網を張り巡らせていくことで、域内物流を取り込んでいきたい」。
いま日通がSS7000から派生する輸送ルートとして特に力を入れているのが、バンコク(タイ)-ヤンゴン(ミャンマー)を結ぶルート。ミャンマーには日系アパレルメーカーの縫製工場が多く進出しているが、日本への輸送に時間がかかり過ぎるという課題があった。