オフィスには業界ごとの「常識」があるもの。業種特有の伝統が職場の作りに影響を与えるのは当然だが、しかし、古い慣習に盲従しただけのオフィスからはイノベーションが生まれづらいことも事実だろう。なかでも独特な文化を持つ金融業界にあって、その「常識」をあえて打ち壊す機能を付加することで生産性の高さを創出した企業がある。その革新的オフィス戦略を紹介しよう。
エリアを仕切る壁は
すべてガラス張り
新生プリンシパルインベストメンツ(以下、新生PI)グループは、新生銀行の投資やファイナンスを行う部署や関連子会社を集結してスピンアウトさせた新しい連結子会社グループだ。社員は総勢150名弱。新生銀行グループ全体から見ればわずか3%ほどの人員で構成される小規模な組織だが、この150名弱こそが、新生銀行グループ全体の利益のほぼ20%を担っている、いわば精鋭中の精鋭部隊でもある。
主にクレジットトレーディングとプライベート・エクイティを業務として執り行う同グループは、2013年7月、新生銀行の投資銀行業務に関する部署や子会社4社を再編して設立すると同時に、新生銀行の本店がある日本橋のビルを離れ、金融の競合大手が集まる大手町のタワービル「大手町フィナンシャルシティ」内の新オフィスに移転した。これまでバラバラに分散していたグループ4社の機能と人員を、約750坪のワンフロアにすべて結集させた形だ。
「街」をコンセプトに造られた新オフィスは、大きく5つのエリアに区分けされている。グループ各社ごとに仕切られた4つのワークスペースのほか、社員が自由に交流できる共有スペースがあり、その中央を横断するように、全長73mの「アベニュー」と呼ばれる通路がフロアを貫通している(上写真)。これをメインの動線として、通路沿いにはグループ社員同士がコミュニケーションを図るための様々な仕掛けが設置されているという具合だ。
だが、このオフィスの真骨頂は、エリアを仕切る壁という壁がほぼすべてガラス張りで透明化され、社員の一挙手一投足が丸見えになるほど徹底的に「可視化」されていることにある。これは金融業界の常識に照らせば、まさに掟破りとも言うべき革新的なスタイルなのだという。
髙野弘昌 代表取締役副社長
「金融のオフィスは、何よりも"守秘的"であることが常識です。例えば、会議室は四方を壁に囲まれた密室であるべきだし、執務室は外から見えてはいけない。デスクは高いパーテーションで囲う。窓は極力少なく、細かい壁を沢山作って目隠しして、情報の保全に努めることが昔からの銀行のスタイルなんです。しかし、我々が新生銀行から独立して新たにスタートを切るにあたって、いわば遊軍的に"暴れること"を目指したとき、まずは古い常識やしきたりという縛りをなくしたいと考えたんです」
と語るのは、新生PIの髙野弘昌・代表取締役副社長だ。「見せずに隠す」という銀行のセオリーと正反対の空間を作ることが、新生PIのオフィス作りの指針となった。その目的は、対外的な「独立宣言」だけには留まらない。むしろ内部の社員たちに強烈な「意識改革」を促すことが、このガラス張りのオフィスの真の狙いなのだという。
新生銀行グループから結集された社員たちには、移転当日まで新オフィスの全貌が伝えられていなかった。初めての出社日、完成したばかりのオフィスを目にした社員からは、驚きと困惑の声が上がったという。ワークスペースを仕切るのは、フロアの端まで透けて見えるガラスの壁だけ。社内で誰がどこにいるか、何をしているのか、その気になれば一瞬で把握することができる。裏を返せば、自分がどこで何をしているかも、周囲からすべて見られてしまう。これまでの常識とは一線を画す、まったく新しい組織を作っていくという決意が、強烈なインパクトをもって全社員に伝わった。
だが、当初は新しいオフィスに馴染めないという声も多かったようだ。
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