多方面で交流文化事業を推進し、もはや総合旅行業や旅行業界国内最大手といった既存の枠組みを超えて事業を展開するJTBグループ。過去4回にわたる連載でさまざまな角度から活動を紹介してきたが、その真の狙いと目指している姿について、弊社論説委員の鎌塚正良が同グループの髙橋広行 代表取締役社長から話を聞いた。
鎌塚 私自身もそうでしたが、JTBに対して大半の人たちは国内旅行や日本人の海外旅行を実施する旅行代理店、とイメージしがちです。しかしながら、近年は「世界発・世界着」の観点からビジネスモデルを再構築し、グローバル企業への転身を遂げているようですね。
ジェイティービー 代表取締役社長
1979年日本交通公社(現JTB)入社。広島支店長、マーケティング戦略部長や取締役旅行事業本部長を歴任。2012年常務取締役JTB西日本社長。14年6月から現職。
髙橋 グローバルに「人流」が活発化しているのは周知のことです。特に経済成長著しいアジア太平洋地域では、2012~20年の8年間で150%近い「人流」の増加が予想されています。
私たちは「人流」に関わるビジネスを展開してきましたが、従来はもっぱら日本が発着点のもの。企業として将来的な発展を図る上では、世界各地のお客さまのニーズに幅広く応え、世界発のアウトバウンド、世界着のインバウンドを事業として確立させる必要があります。
これまでは日本人のお客さまを受け入れるために世界中に拠点を配し、現地の観光関係者とのネットワークを構築してきました。これらの拠点を活用しながら、今後は世界双方向の「人流」をビジネスチャンスに結び付けようとしているのです。
世界でオンリーワンの
「世界発・世界着」事業
ダイヤモンド社取締役 論説委員
1955年生まれ。78年入社。商社、不動産、運輸などを担当。共著に『神戸・都市経営の崩壊』『沸騰する中国』(共に弊社)がある。「週刊ダイヤモンド」編集長在任期間2006年10月~09年9月、11年7月~12年3月。
鎌塚 世界的に事業を拡大する上では、海外の旅行会社をM&Aで傘下に収める手法も積極的に活用してきましたね。こうした将来への“種まき”はすでに完了したのでしょうか?
髙橋 いえいえ、まだまだ完成形ではありません。JTBグループは「2020年ビジョン」という名の目標を掲げ、同年に向けてアジア市場における圧倒的ナンバーワンのポジションを確立し、長期的・安定的に商品やサービスの質を向上させ、JTBブランドの浸透を図ります。
ここ3年間はM&Aによるネットワークの拡充も図ってきました。完全子会社化したシンガポールのダイナスティは富裕層を取り込むため、というように目的が明確です。
また、ブラジルでは合弁で、アラトゥールJTBを立ち上げましたが、これはビジネス・レジャー共に大きな需要が見込めるからです。
鎌塚 JTBといえば、ハワイでトロリーバスを運行したり、ミールクーポン制度を考案したりと、航空券や宿泊先の手配だけにとどまらず、旅行に関連するコンテンツも数多く生み出してきたように記憶しています。
髙橋 その意味でJTBグループは、世界でも類を見ないアプローチを続ける会社です。ホテルや飛行機といった「モノ」だけではなく、コンテンツや体験などの「コト」をコーディネートするビジネスを提供していきたいと考えております。