国内の旅行市場が縮小する状況下において日本の旅行業界が成長していくためには、グローバル市場で世界の旅行者のニーズに幅広く応えることが求められている。真のグローバル企業として、着実に変貌を遂げつつあるJTBグループの世界発、世界着のビジネスモデルとはどのようなものなのか。
インバウンドという言葉を頻繁に耳にするようになった。インバウンドとは、外から入ってくる人の流れを意味し、日本では外国人の訪日旅行の流れを指す。その対義語がアウトバウンドだ。外国人の訪日旅行は伸びが期待されるものの、少子高齢化で日本人の旅行市場は長期的には縮小傾向をたどる。
サイパンは旅行業の
国際化を表す縮図に
JTBグローバル事業本部
事業・マーケティング 統括部長
こうした環境下で日本の旅行会社に求められているのはどのようなグローバリゼーションなのか? まずはサイパン島の変化について、JTBグローバル事業本部の武田淳 事業・マーケティング統括部長は指摘する。
「2009年の時点でサイパン来島者数の過半を日本人が占めていましたが、昨年には日本人の比率が26%に縮小し、中国人が38%、韓国人も28%に拡大しています。同様の現象は、やはり日本人に人気だったインドネシアのバリ島でも見られます」
従来、日本の旅行会社は日本人向けにサイパンのツアーなどを提供し、現地でも日本人向けサービスが中心だった。ところが、今後は日本以外の国々を出発地点とするサイパン旅行も手掛けないと、さらなる成長は見込みづらい。現地でのサービスにもグローバルな対応が求められると同時に、海外の同業他社との競合も激化しそうだ。
「JTBグループではサイパンの人気観光スポットである、マニャガハ島を活用したアクティビティーの運営を実施し、島内のシャトルバスの運行などを通じて競合先に差別化を図りながら、中国人や韓国人向けにも幅広くサービスを提供しています」(武田統括部長)
JTBグループのビジネスがこのような変化を遂げていることを踏まえた上で、冒頭で触れたインバウンドとアウトバウンドの変貌をみてみたい。JTBグループのグローバル戦略は(1)グローバルインバウンド事業、(2)グローバルアウトバウンド事業から成る。
真のインバウンド、
アウトバウンドとは?
グローバルインバウンドでは、日本で訪日外国人旅行者向け事業を展開するのみならず、世界各地のJTBグループの拠点で、その地を訪問する外国人向けのビジネスも範疇(はんちゅう)に入る。他の地域から訪れた旅行者のもてなしを、日本にとどまらずグローバルに展開するわけだ。
アウトバウンドについても、JTBグループが日本人の海外旅行だけを考えていたのはすでに過去の話。今は出発地を日本に限定せず、海外のあちこちで日本人以外も対象に、旅行に関するニーズに幅広く応える事業を展開する。しかも、どちらにおいても法人向けと個人向けのアウトバウンド、インバウンドの四つの軸でマトリックスを描き、違う戦略を綿密に構築してビジネスが展開されている。