国際物流大手のUPSが、海外の生産拠点が急増する日本の製造業の現状と問題について大規模な調査(「ものづくりグローバリゼーション~日本の製造業の国際物流調査報告~」)を行った。この調査をもとに、UPSコーポレート・グローバル アカウント秋田恵介バイス・プレジデント、物流業界の専門紙『カーゴニュース』の西村旦編集長、そして『週刊ダイヤモンド』の原英次郎論説委員が、日本の製造業の国際物流戦略の在り方と課題について議論する。
円安でも国内回帰は限定的
生産拠点の海外シフトは進む
原 UPSでは国際物流について、製造業の関係者に大規模な調査(「ものづくりグローバリゼーション~日本の製造業の国際物流調査報告~」)を行いましたね。この調査からは物流業界のことだけではなく、日本の製造業の生産拠点のグローバル化という大きな構造的変化によって何が起きているか、また、課題となっていること、国際物流の活用における業務の効率化・最適化など、企業が取り組むべき問題がよくわかります。
日本の製造業のグローバル化が進み、「日本のものづくり」のかたちそのものが大きな転換期を迎えている今、それに伴って企業活動が具体的にどう変わってきているのか、またそれによって物流が担う役割がどう変わってきているのか、調査資料を元に意見を交わしたいと思います。
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秋田 私自身は25年間にわたってこの業界に携わってきましたが、足元で痛感している物流業界の大きな変化は顧客のニーズですね。オンラインショッピングが象徴的ですが、いわゆる「B to C」の流れで、製造元から最終消費者のもとへ直接配送するケースが増えています。
その一方で、先ほどから出てきているとおり、日本企業の生産拠点の海外シフトが進んでいます。かつて生産拠点の移転先はもっぱら中国でしたが、近年はベトナムやミャンマーといった東南アジア諸国が中心となってきているのが特徴です。実際、私自身もベトナムなどへ出張する機会が急増していますね。同国へ進出する日本企業の数も、年間30~40%程度のペースで増えています。資料のp.12からも、日本の製造業が今後最も重要と考えている地域は東南アジアだという回答が増加していることがわかります。
西村 私も取材を通じて感じますが、10年程前と比べてグローバルなテーマの記事を取り上げるケースが増えてきていますね。日本の物流事業者が現地法人を設立したとか、倉庫を建設したとか、特に直近ではアジアの現地物流会社を買収したとか、そういった話題が多くなっています。
先進国と新興国の製造コストに格差があり続ける限り、こうした流れは今後も止まらないでしょう。今はアセアンに目が向けられているが、北アフリカや中南米などとターゲットが変遷しながらも生産拠点の移転は続いていきそうです。
原 2012年12月に第2次安倍内閣が発足してから為替相場は大きく円安方向に動いており、それに伴って生産拠点の国内回帰が顕在化するとの指摘もあります。私自身はそういった見方に懐疑的ですが、いかがでしょうか?
西村 一部で国内回帰の動きが見られたとしても、それもある意味でグローバル化現象の1つであると捉えられるのではないでしょうか。日本も含めたグローバルな枠組みの中で、何をどこで製造すべきかが考えられていくわけです。国内回帰の傾向がうかがえたとしても、それはあくまで、「今は日本で作るのが有利だから」という当面の戦略にすぎない。高付加価値製品を中心に一部の生産拠点が日本に戻ってくることはあっても、コモディティ化された製品の製造拠点は今後も海外にシフトし続けるでしょうね。