国際認証つきで世界に出せる仕組みが整った
あえて険しい道を行くサイバーダインの業績は、研究開発費を大胆に投じることもあって創業以来赤字が続いている。遅ればせながら日本でも医療機器としての使用が本格化するHALの保険適用が決まれば、念願の黒字化への道筋も見えてくる。しかし、山海社長の目はもっとずっと先に向いている。
2014年には川崎市と最先端医療関連産業の創出に向けた包括協定を締結。ライフサイエンスを中心とする世界的な成長が見込まれる分野に特化した研究開発機関が集まる市内の国家戦略拠点・キングスカイフロントにイノベーション拠点の建設を進めている。また、来年中に福島県郡山市に建設した生産拠点を操業させ、HALや新規開発したバイタルセンシングデバイスの量産を開始する。
川崎の拠点も福島の拠点も原則的に外部に解放する計画だ。その狙いを山海社長は次のように説明する。
「私たちは社会課題を解決するための基礎技術の研究から始めて実際にモノをつくり、国際規格をつくって認証を取得し、安全技術をつくり、医学的効果効能を証明してと、自分たちで動きださない限り先に進めないものは、それぞれの分野の専門家の力も借りながら一つ一つやってきました。おかげで難しい挑戦を余儀なくされましたが、すべての企業が同じことをする必要はありません。ベンチャー企業や中小企業でも革新技術とアイデアさえあれば、一気通貫で国際認証つきで世界に出せる仕組みが整ったので、これをどんどん利用してもらいたいと考えています」
山海社長の「日本を世界で最もイノベーションに適した国にする」という目標は、日本の産業界の現実を見ると極めて高いように思える。しかし、資源、生産年齢人口、消費需要といったいくつもの「No」に覆われた現状を「New」につながる可能性と捉え直せば、イノベーションの種にこれほど恵まれた国がほかにはない。
山海社長が呼びかけるように、医療、介護ロボットはベンチャーや中小企業にとってもチャンスの大きいビジネスだ。その最大の理由は市場規模にある。
政府は国内の介護ロボット市場を現在の20億円から2020年に500億円にまで拡大する目標を掲げているが、500億円という市場規模は大企業が本腰を入れて参入するには小さすぎる。トランクルームなどの収納サービスや、台所用洗剤とほぼ同程度といえば、その小ささがイメージしていただけるだろう。ちなみに産業用ロボットは国内市場が6600億円、世界では2011年時点で8500万ドル(1兆400億円)に達している。
加えて、医療、介護用ロボットでは高い安全性が要求される。もし事故が起これば、注目度の高いテーマだけに大きく報道されて、主力事業のブランドにも傷がつく。リスクは大きいわりに、それに見合ったリターンが期待しにくいとなれば、大企業が敬遠するのも無理はない。裏を返せばそこに、中小、ベンチャーのチャンスがある。
実際、カメラやセンサを使った見守り型ロボットや、HALのようなベッドから車いすなどへの移乗時に介助者の作業を支援するタイプのロボットには、中小企業の参入も目立つ。大学や研究機関にとって高いものづくり力をもつ中小企業は、先端技術を形にして社会に送り出すために欠かせないパートナーでもあるのだ。