なぜ介護ロボットは現場で嫌われるのか
企画部 広報課長 兼 営業推進課長
入江徹氏 1995年に神鋼興産(現:神鋼不動産)に入社。経営企画、IT戦略、広報、広告業務を担当。2007年にオリックス・リアルエステート(現:オリックス不動産)およびオリックス・リビングに入社。現在は広報課長および事業開発部を兼務。
ロボットによる新たな産業革命を起こすと息巻く国と、開発を担う企業。両社の描く未来図にいまのところ大きなズレは見当たらない。では、肝心のユーザー はどうかというと、医療、介護の現場は実のところロボットにそれほど大きな期待を寄せていない。特に介護分野では利用に消極的な姿勢が目立つ。
オリックスグループで有料老人ホームを運営するオリックス・リビングの入江徹氏は、「介護現場は介護ロボットをほしいとは思っていない」と明言する。
「医療、介護関係者のための専門サイトであるナーシングプラザ.comの調査では、介護ロボットを使ったことのあると答えたのは3%にも届きませんでした。ほぼ誰も使っていない、それが実体です」
その理由を入江氏は、こう説明する。
「介護現場には独特の価値観があって、ぬくもりある人手の介護に勝るものはないという思い込みが根強くあります。たとえば移乗に使うリフトは20年近く前からあるのに、普及率は9%程度。これでは介護職の職業病といわれる腰痛が一向に改善しないのも無理はありません」
だからと言って、介護ロボットのニーズがないと考えるのは早計だ。
「介護をされる側はロボットの使用を必ずしもいやがっていません。たとえば移乗にしても、慌ただしく抱きかかえられるよりもリフトを使ってゆっくりやって もらった方が安心だし、身体への負担も少ない。そもそも家族でもない介護職員のぬくもりを本当に望んでいるのかどうかも疑問です」と入江氏。介護者と被介護者の意識のギャップがあることがわかる。
さらに深刻なのが、開発企業と介護者との間のギャップだ。企業は開発するにあたって現場のニーズを探ろうと、「何が大変ですか」と聞く。聞かれたほうは大変なことを素直に挙げるので、移乗や移動という答えになる。そこで人体に装着するパワーアシストスーツなどの開発となるのだが、「大変なことイコール、ロボットにしてほしいことではない」と入江氏は指摘する。
被介護者の意向に背くわけでもないのに、なぜ負担の重い作業をロボットにさせようとしないのか。
「自己犠牲の精神で腰痛も厭わずやっていることを、ロボットに代替されたら自分の存在意義の否定になりかねないからです。ビジネスの世界では理解しにくいかもしれませんが、介護分野では珍しい話ではありません。ロボットを導入する目的は普通、省力化や生産性の向上でしょうが、そういう意識も介護の現場には希薄なのです」