ASEANで勝ってアジアで負ける!?

 国内市場に限界を感じて新興国に進出する日本企業は多いが、順調に事業を拡大しているのは一部にとどまる。コマツ、スズキ、ホンダ、ユニ・チャーム……。成功事例として挙がるのはいつも同じ顔ぶれであることが、厳しい現実を物語っている。

スパイダー・イニシアティブ
代表取締役社長
森辺一樹
1974年生まれ。幼少期をシンガポールで過ごす。2002年、中国・香港にて、新興国に特化した市場調査会社を創業し代表取締役社長に就任。2013年、日本企業の海外販路構築を支援するスパイダー・イニシアティブ株式会社を設立。専門はグローバル・マーケティング。海外販路構築を強みとし、市場参入戦略やチャネル構築の支援を得意とする。10年で1,500社以上の新興国展開の支援実績を持つ。著書に『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法』(中経出版[KADOKAWA])がある。

 その理由を、1000社以上の日本企業の海外進出を支援してきたスパイダー・イニシアティブの森辺一樹社長に尋ねると、「実はユニ・チャームでさえ、新興国全体でみれば存在感は薄い」という意外な答えが返ってきた。

「確かにユニ・チャーム以上にASEANで活躍している日本のおむつメーカーはありません。タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナムではP&Gを圧倒していて、ASEANではトップです。ただ、インドでは60%、中国では35%のシェアをP&Gが押さえている。それは彼らが年間2700万人の子どもが生まれるインドや1600万人が生まれる中国を、400万人のインドネシアや140万人のベトナムよりも重視しているからにほかなりません。シェアだけでなく、マーケットのサイズを見極めることも非常に重要なのです」

 グローバルメーカーが制すべき市場とどちらでもいい市場を区別しているのに対して、日本企業にははっきりした戦略が見えないというのだ。

 もちろん日本企業もマクロ分析や市場調査を行った上で進出先を決める。しかし最終的には、社長が前に駐在していたことがある、たまたま視察に訪れた国に活気があったといった、およそ科学的とはいえない理由で決定されることも少なくない。

「アジアの国なら大抵は活気に満ちているのに、そんなことで決まってしまう。当社のクライアントの多くは大企業ですが、進出戦略が曖昧な点においては、大手も中小も実体はそれほど変わりません」