P&G、ネスレ、ユニリーバのチャネル構築から何を学ぶのか
属人的な理由に加えて、もう1つ、進出先を決める理由としてよく聞くのが、「良い現地パートナーに出会えたから」というものだ。確かに信頼できるパートナーは新市場の開拓に欠かせない。しかし森辺氏は、「本当にベストのパートナーなのか、比較も検討もせずに選んで任せ切ってしまっているケースが多い」と心配する。
たとえば製造業ならば、販売チャネルの構築が最重要課題となる。ASEANではショッピングモールやスーパーマーケットなどの近代小売よりも、個人経営の伝統小売の比率がまだまだ高い。そこに商品を行き渡らせて店頭にしっかり並べてもらうためには、力のあるディストリビューターの存在が必須だ。
森辺氏によれば、1980年代後半にアジア新興国市場に進出して以来、着々と自社商品を浸透させてきたP&Gやネスレ、ユニリーバでさえ、複数のディストリビューターを使い分け販売チャネルの間口を広げる努力をしているという。それほど重要なディストリビューターの見極めが、日本企業ではなされていないというのだ。
「財閥系だから信頼できるとか、役所に顔がきいて日本語も話せるから安心だとか、理由にならない理由ばかり。地域や売りたい商品によってもベストのディストリビューターは違うのに、一国一代理店で満足して新しく開拓する努力もしない。これでは業績が伸びないのも当然です」
ASEANでの日本企業の苦戦を「ものづくりで勝って、チャネルづくりで負けている」と森辺氏は表現するが、挽回の余地は残されているという。グローバル企業でも日本の大手企業でも、本当に実力があって信頼できるディストリビューターをつかまえているところは多くない。言い換えれば、そこを押さえさえすれば、これから参入する中小企業にもチャンスがあるということだ。
森辺氏が例に挙げたのが、インスタント麺のエースコックである。日本では日清食品、東洋食品に大きく水をあけられているが、ベトナムではシェア5割を握るダントツの1位で、そこを基盤にアジアでの事業拡大を図っている。
「日本の小さなマーケットで負けていても、世界では逆転できる可能性がある。中小企業にもチャンスがあるということです。今さら遅いと思うかもしれませんが、躊躇すればするほど状況は悪くなる」と決断を促す。
ビジネスには鳥の目と虫の目が不可欠とされる。マクロの視点で経済情勢を俯瞰し、ミクロの視点からASEANで業績を拡大するための課題を解決する。そしてもう1つ、ビジネスを見るのに必要なのが魚の目、つまり潮の流れを見る目である。ASEANの先にはBRICsはもちろん、最後の巨大市場アフリカも待ち受けている。人口と富の移動というメガトレンドを見れば、国内に留まったまま成長機会を捉えることが不可能なのは明らかだろう。日本企業は新たな活路を切り開くことができるのか、正念場を迎えている。