人を動かす生々しいメール

○○さん

現在の仕事で悩んでいます。
今週のどこかで、アドバイスをいただくことは可能でしょうか?
悩みは主に次の2つです。

1.仕事のスピードが遅い
 (例)ご覧いただいたダイヤモンド社向けの提案資料の作成に3日かかりました
2.プレゼンが上達しない
 (例)商品企画会議で寺林部長からプレゼンを途中で止められました

お時間があればで結構ですので、ご検討いただければ幸いです。

△△

 箇条書きの1段目は、まったく同じものだ。加えたのは、それぞれの2段目の例だ。例を固有名詞で入れた。それによってどう変わったか。

 最初のグループは、これまでは「仕事のスピードが遅い」という抽象的な悩みに過ぎなかった。

 それが、固有名詞で特定された資料作成の話題を入れただけで、急に生々しくなり、イメージが湧くようになる。先輩からすれば「あの資料で3日かかったのか。それはひどいな。アドバイスしてやるか」と思うかもしれない。

 2つ目の悩みも「プレゼンが上達しない」という誰もが悩むようなことだった。

 そこに、特定の会議名と、さらに、ある部長にプレゼンを止められたということを例で加えた、それも固有名詞で。会議名と部長名が固有名詞で挙げられたため、先輩からすれば急にそのシーンのイメージが湧くようになる。相談してきた後輩の悔しさに共感できるようになる。

 抽象度が高く、直接は固有名詞を入れられないものでも、例として固有名詞を下の段に加えるだけで、急に箇条書き全体が生々しくなるのだ。相手は引き込まれ、最後まで集中して読んでもらえるのである。

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杉野幹人(すぎの・みきと)
A.T. カーニーマネージャー 東京農工大学工学部特任教授
東京工業大学工学部卒。INSEAD MBA修了。早稲田大学商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)大学卒業後、NTTドコモに就職。シリコンバレーで仕事を共にした500人以上の起業家のプレゼンや提案資料から、箇条書き(Bullet points)で短く魅力的に伝えることのパワーとその技術を学ぶ。世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを修了後に、グローバル経営コンサルティングファームのA.T.カーニーに参画。経営戦略、マーケティング戦略、新規事業、経営会議運営支援等の幅広い経営コンサルティングプロジェクトを手掛けている。箇条書きを用いた経営者向けのプレゼン・資料作成の経験は300回を超える。現在は、箇条書きを基礎としたストーリーライティングの技術を東京農工大学でも教えている。著書には単著として『使える経営学』(東洋経済新報社)、『会社を変える会議の力』(講談社現代新書)、共著として『コンテキスト思考』(東洋経済新報社)がある。