2020年は戦後教育の節目の年となる。10年に一度の小中高の学習指導要領改訂に合わせて、共通1次試験以来40年間続いてきた大学入試制度が大きく変わる。OECDのアドバイザーも務め、教育改革の最前線で奮闘中の文部科学大臣補佐官・鈴木寛氏に話を聞いた(第2回)。 (インタビュアー/後藤健夫)

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板挟みと想定外に向き合い
それを乗り越えるのが学び

文部科学大臣補佐官 鈴木 寛(すずき・かん)
1964年兵庫県生まれ。灘中学校・高等学校、東京大学法学部卒業。86年通商産業省(現・経済産業省)入省、ネット ワークインフラの整備などに尽力。通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰。99年慶應義塾大学SFC環境 情報学部助教授を経て、2001年参議院議員。文部科学副大臣を2期務める。14年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大 学政策メディア研究科教授に同時就任(国立・私立大正規教員を兼任するクロス・アポイントメント第1号)。15年2月より現職。他 に、日本サッカー協会理事、日本教育再興連盟代表理事、日本スポーツ振興センター顧問、ストリートラグビーアライアンス代表な どを務める。 (写真:石原敏彦)

―学ぶとは自ら学ぶしかない。

鈴木 そこを分かってほしい。先生と保護者がアクティブラーナー(能動的学習者)にならないと。

―どうやったら学べるようになるのでしょう。

 カオスがいいと思う。混乱が起こっているときには、自ら考え、状況を見て、判断するようになる。板挟みと想定外に向き合い、それを乗り越えることが大切です。

 私は日本サッカー協会の理事もしていますが、日本の競技場はきれいなグラウンドに鏡のような芝生が整備されています。しかし世界を見れば、グラウンドは凸凹で、ボールはイレギュラーバウンドする。

 そのときどう対応するか。必ずタックルされますから、ドリブルなんかきれいにはいかない。相手の妨害なく蹴ることができるのはPK戦ぐらいのもの。常にいろいろな障害を突破することにリアリティがある。

―決定力不足の日本のサッカーですね。

鈴木 チャンスをつかむためには膨大なシュートを打ち続けないといけない。サッカーで打率3割はあり得ません。

 ところが、日本の教育はすべてに10割を求めるようなところがある。実社会への認識のイメージが違う。凸凹のグラウンドではなく 、ごみ一つ落ちていない工場を思い浮かべている節がある。

―工場ではベルトコンベアーでちゃんとモノが回ってくる。

鈴木 今や工場見学に行くと、ロボットしかいない。製造業はロボットの仕事です。

 私の大親友だった故平尾誠二は、「ラグビーにコンパルソリーフィギュア(規定)があれば、日本は世界一だ」と言っていた(笑)。型通りにきれいにパスをする。でも得点できない。全部同じことです。

文科省はちゃんとしていないボールを与えようとしているが、子どもにシュートを打てる体勢を与えられるのか、それともそれは自分たちでということなのか。

鈴木 悩ましい板挟みの問題です。僕らは「どうぞ自由に現場で考えてください」と思っていますが、そうすると教育委員会や大学の学長が「決めてほしい」「指示してほしい」「宿題を出してほしい」と言ってくる。「宿題」を欲しがる学生は多いらしいですが。

―安心するんですかね(笑)。

鈴木 僕らは指示待ち人間を減らしたい。パッシブラーナー(受動的学習者)からアクティブラーナーになってほしい。まずは、文科省と大学、県教委の関係を、以前のような上下関係から役割の違う対等な協力関係にもっていきたい。 文科省に出入りして10年ですが、もはや、規制官庁時代の上から目線の官僚は卒業していなくなりました。