【三田会の結束力はよく知られたところ。すでに大学時代から小単位の結束が強いようで…】『大学図鑑!2019』は、シリーズ第一作発売から20年目を迎えました。最新刊の発売を記念して、実際に大学を取材しているスタッフライターのみなさんにこぼれ話を聞いていきます。今回は、サークルやゼミに群れがちな慶応大学の状況と背景をお伝えします。

 慶應生と話をしていると、他大生よりも「サークル」「研究会(ゼミ)」の話題が飛び出すことが多いと感じる。慶應は小単位の結束が強く、サークル、ゼミで群れる度合いが強いのだ。

 日吉の食堂棟の上階にある学生団体スペースは、「たまり」と呼ばれており、塾生会館に部室を持てないサークルのたまり場となっている。広い空間に長机がたくさん置かれており、サークルメンバーたちが暇をつぶしたり、おしゃべりに花を咲かせたりしている。

 ちなみに、現在の慶應において、人数の多さで幅をきかせているサークルは、テニスサークルとダンスサークルだ。とりわけ、ダンスサークルは「三田祭」のステージの花形でもあり、とびきり目立っている。

 さて、楽しい日吉での生活が終わり、3年生になると、ほとんどの者はサークルを引退する。そして、多くの学生が、ゼミに入ることを意識するようになる。文学部はゼミが必修。また、理工学部は研究室に全員配属される。その他の学部は、2分の1から3分の1が「ノンゼミ(ゼミに属さない状態)」だと聞く。

 10月頭、三田キャンパスに行くと、経済学部の入ゼミ試験結果が貼られていた。筆者が確認できたのは31ゼミ。そのうち、合格率が100%のゼミは、たった4つだった。入ゼミ基準は厳しいようだ(学生によると、「試験は面接がほとんどで、学力試験の課されるゼミもあるが稀」とのこと)。

 また、人気のあるゼミと、そうでないゼミで非常に偏りがある。26人もの受験者が集うゼミもあれば、2人しか受験者のいないゼミもある。

 ゼミによって受験者数に偏りがあるのは、「就職に有利」とされているゼミに、応募が集中するからだ。法学部3年の男子は次のように語った。

 「『大手ゼミに入れば食いっぱぐれない』という話を聞いて、暗澹たる気分になりました。慶應はゼミの種類が豊富だけど、小規模だったり、歴史がなかったりすると就職にはほぼ有利に働きません。OB会の規模が違いすぎる。有名ゼミに所属していた先輩の中には、テレビ局の名刺をもらって、そのまま就職した人もいます」

「良いものはメジャー」という意識

 毎年発表される「有名企業400社実就職率ランキング」の2017年版(東洋経済オンライン/大学通信調べ)を見ると、慶應は400社への就職率が46.5%で第3位とされている。

 「寄らば大樹の陰」を良しとする慶應生の考え方が、就職において強みとなるのは紛れもない事実のようだ。学生に向けてインターンシップ・就活セミナー情報などを提供している、スローガン株式会社の伊藤豊社長は「慶應生は『良いものは、メジャーなものなんだ』という意識が強い」と話す。

 また、10年ほど前に慶應を卒業したOBは「就活中、『どこ受けてるの?』って聞かれて『慶應生の受けそうなところだよ』って返すのは、慶應の『あるある』ですね」と語った。

 そういった慶應生の考え方にはプラス面もある一方で、マイナス面もある。商学部3年の男子は、「自分はゼミの代わりに、GPP(原則として英語で行われる授業)を受講している」と前置きした上で次のように述べた。

 「自分はゼミの代わりに、GPPという留学生と一緒に授業を受けるプログラムを受けています。ゼミには6~7割の人が入るから、『〇〇ゼミに入ってる』といえば、何をやっているのかすぐにわかってもらえます。でも、『GPP受けてる』っていっても、知名度が低いから、結局『何してるの?』ってなってしまう」

 さらに、サークル活動についても、こう述べた。

 「サークルに入っているのも当たり前みたいな空気があって、サークルに入っていないと話すと、一瞬、『君、協調性ないの?』みたいな雰囲気になる。慶應では、特定の要件を満たしていないと、『不適合者なのかな?』みたいに思われてしまう。それがイヤだから、『サークル入ってる』って嘘ついています」

 前出の伊藤社長いわく、「弊社にインターンに来ていた慶應の子は、ゼミを辞めるという選択をするときに泣いていたんです。そのとき、『学内の同調圧力が強いんだな』と感じました。慶應生は地頭がよくて、大人なコミュニケーションができるところは強みですが、その反面、群れから外れるのが怖くて、リスクテイクできないのは弱み」のようだ。

 冒頭の「慶應生は群れる」という記述を見て、「大学生なんて、みんな群れているじゃないか」と思われた読者の方もいるかもしれない。ただ、多くの大学生の場合、サークルに気が合う友達がいて、自然とつるむようになるとか、そういった感情的な理由で群れを作っている。

 一方、慶應生の群れ方は違う。サークルであれば「ラクタン(簡単に取れる単位)」の情報を、ゼミであれば就活の情報を仕入れるために、明らかな利益をめざして大きな組織に属すのだ。そして、卒業後には三田会で集う流れへとつながっていく。

 そのような合理主義的な考えを良しとし、また、保守本流の流れに乗れる人であれば慶應は最高の環境となるだろう。しかし、そうでない場合は前出の商学部生のように、評判を気にして振る舞わざるをえない雰囲気があるのも確かのようだ。