4月以降、金相場が下落傾向で推移している。5月半ばには、節目である1トロイオンス当たり1300ドルを下回り、その後、やや持ち直す場面もあったものの、7月19日には1211ドルと1年ぶりの安値まで下落した。

 ドル建てでの取引が主流を占める金は、ドル相場が下落すると割安感から買われ、ドル相場が上昇すると割高感から売られる関係にある。主要6通貨に対するドルの相場を加重平均したドル指数は、同日に95.65と1年ぶりの高値を付けていた。

 また、米国の利上げ観測が強まると、ドル高が進みやすくなることに加え、金利が付かない金の相対的な魅力が低下するということもあって、金の弱材料になる。

 なお、金相場がある程度、下落すると、割安感が生じたとみて中国やインドなど新興国の個人客が買いを入れて、下値が支えられるというのがこれまでのパターンだったが、足元では新興国の買いが不発に終わっているようだ。

 その背景には、新興国通貨建てを見ると、金相場はあまり下がっていないことがある。ドル建ての金価格は年初に比べて5~6%下落しているが、人民元建てでは2%強の下落にとどまり、インド・ルピー建てでは2%弱の上昇、トルコ・リラ建てでは2割程度もの上昇となっている。自国通貨が対ドルで下落している新興国では、金の価格に割安感が生じにくい状況となっている。

 また、ドル高の要因だと目されている米国の利上げや米中貿易戦争が、一方では世界景気の下押し要因となり、ひいては新興国の個人層の所得増加ペースが鈍化して金需要が伸び悩むことが懸念されている。

 金は、安全資産、つまり各種リスクからの逃避先と考えられて、当初は米中の貿易戦争懸念が高まる局面でも買われる傾向があったものの、米中貿易戦争は新興国を中心に各種資源の世界需要を下押しし、金も例外ではないとの見方が強まっている。

 また、米国では、景気は底堅く推移していることを背景に、利上げ観測が強まり、ドル高が進行することも金価格の抑制要因だ。

 もっとも、中東の地政学リスクや米欧の政治リスクなど各種リスク要因はくすぶっており、米中貿易戦争についても再び金買いの材料視される局面も考えられる。また、7月19~20日には、トランプ米大統領がFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ継続スタンスに対して不満を表明し、金融政策に介入する可能性が懸念され、ドル売り・金買いにつながるといった波乱要因もあった。

 目先は金相場の調整局面が続きそうだが、下値は限定的だと思われる。

(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)