今年の株式市場の動きを整理してみる。年初は米国の法人税の引き下げとインフラ投資による景気拡大を織り込み、1月には日経平均株価は2万4124円まで上昇した。

 その後、トランプ政権の鉄鋼・アルミに対する追加関税発表による海外投資家の急激な売りで3月に2万0617円まで下落、5月にいったん2万3002円まで戻した。しかし、7月6日から開始された340億ドル(約3.7兆円)の中国からの輸入品に対する25%の追加関税の発動や、対象を広げ最終的には5000億ドル余りに相当する中国製品が標的になる可能性も出てきたため、日経平均は7月4日には2万1546円まで再下落した(上図参照)。

 本欄も年初の「歴史的高水準の企業業績に迫る量的緩和終了という試練」(1月22日)から「海外投資家の売りが止まれば短期のリバウンド相場へ」(4月16日)と、大きく投資判断を変えた。そして前回(6月18日)では「数少ない当面の好業績銘柄に投資家が集中し株価は大きく上昇」しており、「材料株の上値を追うよりも配当利回りの高い銘柄に注目する必要がある」と再度警戒モードに入った。

 しかし、この懸念も2017年の株価上昇率上位銘柄が最近急速にパフォーマンスを悪化させたこと(下図参照)を見ると、ほぼ株価に反映された。現在の株価水準は今後の企業業績の伸び悩みと米国の通商問題を織り込んだ水準で下値は限られており、次の投資チャンスを待つ時期とみる。

 米中貿易戦争が足元の最大の注目点であるが、足元の材料は時間の経過とともに消化され、次のイベントに反応する(織り込む)ようになる。16年の英国のEU(欧州連合)脱退の決定や昨年の北朝鮮のミサイル発射問題に市場は一時、大きく反応したが、現在では注目度は低くなっている。

 今年3月から始まった米国の通商問題は1年後も投資家の大きな関心事であり続けるだろうか。輸入自動車に対する追加関税という大きなヤマ場は残るが、注目は追加関税の問題から中国の景気に移るだろう。なぜなら、米国の金利上昇が新興国から流動性を吸い上げることが通商問題に隠れた本質的な問題であると考えるためだ。

 上海総合株価指数は年初来17%下落しており、世界の主要市場で最も大きな下落率である。トランプ政権の「雇用を促進する」ための景気対策が、FRB(米連邦準備制度理事会)の金利引き上げに結び付き、その結果として中国やその他のドルリンクの為替政策を取る国の資金が米国に高い金利を求めて集まる。この構図は新興国にとっては意図せざる流動性抑制であり、その対策は容易ではない。市場の次の方向性に注目したい。

(UBS証券ウェルス・マネジメント本部ジャパンエクイティリサーチヘッド 居林 通)