近所の塾のメリット

 近所の塾に通う大きなメリットは、送り迎えをしなくていいことだ。

 送り迎えだけではない。自宅の近くに塾があれば、授業がない日も気軽に自習室に行かせられる。宿題で分からない問題があれば、「じゃあ、明日、塾に行って質問してくる」ということもできる。

 ある中学受験生の保護者は、こう話す。

 「仕事が終わってから、夕飯を作って、お弁当箱に詰めて塾に届けることもできます。家から近い塾はこういうこともできて良いと思います」

 また、通いやすさだけでなく、校舎の規模という点でも、大規模校舎より地元の校舎の方がいいと思う場合もあるだろう。地元の校舎が小規模であれば、生徒の数が少なく、校舎長や講師と生徒の距離が近い。その分、ひとりひとりの生徒に目を配ってくれる可能性が高くなる。

近所の塾のデメリット

小学校の同級生がいる

 一方で、近所の塾にはデメリットもある。そのひとつが、小学校の同級生と塾でも顔を合わせることだ。

 中学受験を終えた子供を持つ世田谷区在住の保護者は、近所ではなく、電車で通う自由が丘の塾を選んだ。「なぜ、自由が丘の塾にしたのか」と尋ねると、こう返ってきた。

 「自宅から徒歩5分のところに日能研があるからそこに入れようと思ったら本人が『小学校の同級生が通っているから嫌だ』というんですよ。それで電車に乗って自由が丘の塾をいくつか回りました。自由が丘だとたくさん塾があるから選択肢が多いのはいいですね。入塾テストや体験授業を受けて本人が納得した塾に通わせました」

 このように、「同じ小学校の児童がいない塾の校舎がいい」と主張するのは、たいてい女子だ。やはり女子は大人びているので、人間関係を気にする傾向がある。

 同じ小学校の児童がいるのを嫌がるのは、「塾でどのクラスにいるか」や、どの学校を受けるかが知られてしまうからだ。

小学校のママ友に志望校が筒抜け

 実際に、塾での様子が小学校を通じて周囲に伝わった、こんなエピソードもある。

 ある女子生徒は、自宅最寄り駅の駅前にある大手塾の校舎に通っていた。偏差値が上がって女子学院を受験することになり、他の校舎で行う志望校別特訓にも通うようになった。

 すると、母親は小学校のママ友から「女子学院を受けるのね。すごいわね」といわれるようになった。

 同じ校舎にいる同級生が、小学校で「あの子、女子学院の志望校別特訓に通っているんだよ。すごいね」と話し、それを聞いた他の生徒が自分の母親に伝えたのだ。

 母親は、その同級生についてこう話す。

 「それを学校で話した同級生はまったく悪気はありません。娘とは関係が良好で、その子の家に遊びに行ったこともあります。おっとりした自己肯定感が高い子で嫉妬したり、意地悪な気持ちがあったりしたわけではないです。純粋に『すごいね』と思ってくれたんでしょう」

いじめが持ち込まれることも

 志望校などの情報が伝わるだけでなく、塾でいじめが起き、それが小学校に持ち込まれることもある。

 いじめなどの人間関係のトラブルは、塾に相談すれば対応してくれる場合と、そうでない場合がある。たとえば、いじめをする生徒が飛び抜けて勉強ができ、最難関校に受かるほどの場合、塾はその「デキる生徒」をかばうこともある。

 塾の対応をめぐっては、こんな例もある。御三家の合格実績を誇るある中堅塾で、授業中に騒ぐ男子がいた。同じ授業を受ける女子生徒たちの保護者がクレームを入れまくったが、塾は対応しなかった。筑駒や開成に受かるほどの学力がある男子だったからだ。結果、女子生徒たちが辞めた。

 「塾からしたら筑駒も開成も受験すらできない女子生徒たちよりは”デキる男子”が大切なんでしょう。転塾先の大手塾はそういうことはなくて、授業中生徒が騒ぐとその場で講師が『ふざけるなら辞めろ!』としっかり叱ってくれるそうです」(女子生徒のママ)

 大手塾の場合、最難関校に受かる生徒は他にもたくさんいる。そのため、いじめをする生徒の成績がいくら高くても、ちゃんと対応することが多いという傾向がある。ただし、対応には校舎によって差がある。

塾銀座の塾のメリットは?

 ここまで近所の塾について見てきたが、電車に乗って、塾の多い街に通わせるケースも多い。塾が集まる街を「塾銀座」という。

 東京の最大の塾銀座は自由が丘と吉祥寺。これらの街には、SAPIX、早稲田アカデミー、四谷大塚、日能研、ジーニアス、エルカミノなど、大手塾から中堅塾まで二桁の数の塾が存在する。

 他にも、巣鴨、豊洲、たまプラーザ、東日本橋、渋谷などに塾が集まっている。埼玉だと南浦和や大宮、千葉だと新浦安や西船橋などだ。

 関西では、西宮が代表的な塾銀座だ。西宮の駅に降り立つと、浜学園、希学園、馬渕教室、進学館などの塾の大きな看板が目に入ってくる。

クラスが多く、クラス内の学力差が少ない

 こうした大きな街まで電車に乗って通うのは、生徒にとってメリットがあるからだ。

 大きな街の校舎は規模が大きく、クラスの数も多くなる。たとえば、日能研の小さな校舎だと2クラスしかないが、大宮の校舎だと8クラスぐらいある。SAPIXの自由が丘校や吉祥寺校は何百人もの生徒がいるので、クラスの数は2桁になる。

 クラスが多いと、その分、クラス内の学力差が少なくなる。自分と近い学力の生徒と授業を受けられるから、「授業についていけない」というリスクが減る。

優秀な講師がいることも

 クラスの数に加えて、講師の配置にもメリットがある。大規模校舎には優秀な人材を配置することもあり、優秀な校舎長や講師が集められた校舎では、授業や管理がしっかりしていることが期待できる。

 ある大手塾の大規模校舎で、人間関係のトラブルが起きた時のことだ。保護者が塾に相談すると、塾が完璧に対応してくれたという。その校舎は、業界内でも「あの塾のあの校舎はいい」といわれていた。

 校舎によって指導や対応に違いがあるので、同じ塾でも複数の校舎を回ってみるのも大切だ。

電車通塾でも、子供は対応できる

 では、近所ではなく、電車に乗って通う校舎を選んだ場合、送り迎えはどうすればいいのだろうか。

 冒頭で書いたように、「送り迎えがいらない近所の塾」に通わせようとする家庭が増えている。ただ、取材をしていると、「子供は電車に乗って巣鴨の塾に通っていたが、送り迎えはほぼしなかった」という話も耳にする。

駅から校舎までの通いやすさがポイント

 電車に乗って通うとしても、送り迎えは実は不要なのではないか。巣鴨に塾が密集するのは、駅周辺が落ち着いた雰囲気で、子供だけで塾まで行くことが可能だからといわれる。

 自由が丘もそうだろう。上品な山の手を代表する街で、繁華街ではない。コンビニもあるから、子供が軽食を買うこともできる。

 こうした駅から校舎までの通いやすさについて、ある豊島区在住の保護者はいう。

 「最初、池袋の塾に通わせようと思いましたが駅の改札から塾までが遠いのと、近くに繁華街があるのが気になって止めました。巣鴨は駅も大きくないですし、子供が1人で塾に通いやすいと思います」

 駅の近くに校舎があり、駅からの経路も通いやすければ、子供1人で通うことも選択肢になる。

塾による駅までの引率や、友達との通塾も

 また、授業が終わると駅まで送ってくれる塾もある。同じ方向へ帰る友達と電車に乗れば、楽しく過ごせる。都内の電車の中では、中学受験生の生徒たちが仲よさげにしている様子が見られる。

 一方、車で送り迎えをする場合にも、気を付けたいことがある。塾の校舎の周辺では、お迎えにきた車が渋滞し、近隣に迷惑をかけているケースも多々ある。

 送り迎えの負担や周辺への影響も踏まえると、自宅から離れた校舎に通わせる場合は、子供だけで通えるようにすることも検討したい。巣鴨や自由が丘のような通いやすい駅を選ぶ、友達と一緒に電車に乗って通うようにするなど、工夫が必要だ。

必要な時の送迎は、保護者同士で協力する方法も

 友達との通塾に加え、保護者同士で協力している家庭もある。世田谷区在住のある中学受験生のママはいう。

 「同じマンションに同じ校舎に通う子が2人います。その子たちと塾に通っています。ママ同士も連携して、駅までのお迎えが必要な時は交代で行っています」

 共働き家庭が増える中、どうやって中学受験を乗り越えるか。そのためには、どの塾に入れるかだけではなく、どこにある塾に通わせるかを考える必要があるだろう。