「なんと、若手全員がうつで退職。チームそのものが消えちゃったんですよ」
こう語る大手IT系企業の宮本峻さん(仮名・31歳)は、ネットワーク保守・運用部門で働いている。
「消えたチーム」というのは、宮本さんのいる部署の隣のプロジェクトチームだ。ここには、中途入社した彼の同期5人が配属されていたという。その5人がそろいもそろってメンタルヘルスを悪化させた。うつや自律神経失調症などを病み、2年目には全員いなくなっていたという。
「結局、プロジェクトは立ち行かなくなり、会社は事業から撤退することになりました。こんなことは今に始まったことじゃありません。大量に新人を採用し、彼らがいなくなると、また募集をかける。そんなことをしょっちゅう繰り返しているんです、うちの会社は」
いったい、宮本さんの会社では何が起こっていたのだろう。
ほったらかしの
「即戦力」たち
宮本さんが説明するように、この会社では頻繁に技術職の大量採用を行なっている。人手不足の折ということもあり、いつも未経験者大歓迎だ。入社してくる新人の中には、文系の出身者も少なくない。もちろん、ネットワークのことなどまったく知らない人々だ。
本当なら、教育にはそれなりの時間がかかるはずだが、現実には「1週間程度の基礎研修をざらっとやるだけ」という。あっという間の入社後教育が終わると、新人たちは「即戦力として主体的、自立的に活躍してほしい」などといわれ、すぐ現場の最前線に立たされる。
しかし、多種多様な問題を抱え、せっぱつまって連絡してくるクライアント、エンドユーザーたちへの対応は単純にマニュアル通りとはいかない。電話ごしに罵声を浴びせられ、うろたえることもある。そんなときも彼らは上司のフォローをろくに受けられず、ひとりで問題に対処する。上司たちはそれぞれ自分の業務を大量に抱えており、部下の問題にいちいち付き合っていられないからだ。