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森達也 リアル共同幻想論

拉致問題、もはや萎縮などしている場合じゃない

森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]
【第25回】 2009年7月27日
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テレビ画面の中の彼はいつも怒っていた

 「やっとお会いできましたね」

 椅子から立ち上がりながら、蓮池透さんは言った。僕も同じ思い。正真正銘の初対面であるけれど、そんな気がしない。ほぼ同世代で新潟出身ということも共通しているけれど、もちろんそれだけが理由じゃない。

 北朝鮮による拉致被害者である蓮池薫さんの実兄であり、家族会(北朝鮮による拉致被害者家族連絡会)の元副代表で事務局長でもあった蓮池透さんの顔は、五人の拉致被害者が帰国した2002年10月以降、家族会のスポークスマンとして、ほぼ毎日のようにテレビで見ていた。

 テレビ画面の中の蓮池さんは、いつも怒っていた。苛立っていた。日本政府の対応は生ぬるいとして、北朝鮮への強硬な制裁を激しく主張していた。憲法九条が拉致問題の解決を阻害していると発言したこともある。北朝鮮に対して自衛隊を出動させるべきだと主張したこともある。

 その蓮池さんが、テレビ画面の中からいなくなってから、もう数年が経過する。家族会事務局長のポジションには、(やっぱりいつも怒っているような)増元照明さんが就いている。家族会がそろって記者会見するときも、蓮池さんの姿はそこにはない。何となく不思議だった。なぜ急に、彼は消えてしまったのだろう。

 数年間の沈黙を経て、昨年の夏から秋にかけて、いくつかの雑誌に彼のインタビューが掲載された。内容はすべて共通していた。拉致問題に対するこの国の姿勢への違和感だ。でももっと強硬策を取れとの趣旨ではない。まったく逆だ。強硬な経済制裁などに効果はないと蓮池さんは語っていた。むしろ逆効果の可能性があると。

 僕もまったく同意見。いやこれは意見ではない。当たり前のことだと思う。もしも拉致被害者がまだ北朝鮮にいるのなら、拉致被害者はもういないと宣言してしまった北朝鮮は、(制裁が強化されれば)都合の悪い彼らを消してしまうかもしれない。

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森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]

1956年生まれ。テレビディレクター、映画監督、作家。ドキュメンタリー映画『A』『A2』で大きな評価を受ける。著書に『東京番外地』など多数。


森達也 リアル共同幻想論

テレビディレクター、映画監督、作家として活躍中の森達也氏による社会派コラム。社会問題から時事テーマまで、独自の視点で鋭く斬る!

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