「センスは生まれ持った才能」だと思いがちだが、元プロサッカー選手でW杯でも活躍した中村憲剛氏は、感覚も後天的に磨けるものだと語る。センスを獲得するためには、どのような努力が必要なのか。一流選手たちに学ぶ“センス”の磨き方とは。※本稿は、中村憲剛『才能発見「考える力」は勝利への近道』(文藝春秋)の一部を抜粋・編集したものです。
センスは「先天的なもの」だから
努力では身につかない?
現役時代の自分を振り返れば、パスセンスはあったのではと思います。

チームメイトの多くが通さない、通せないと考えるところへパスを通す。見ている選手が少ないところにも、目が届いてパスを出す。1秒後の未来が見えたこともあります。このパスを出したらこうなるという画が、頭の中に思い浮かぶことがありました。
そういうプレーは僕なりの感覚、つまりセンスだったと感じます。
センスに欠けていたのはディフェンスです。川崎フロンターレでトップ下からボランチにコンバートされたり、サッカーの進化に伴ってポジションごとの役割が変わってきたりしたことで、「守備意識」は高まっていきました。ただ、センスを感じさせる守り方やボールの奪い方は、最後までできていなかった気がします。
センスは先天的なもので、後天的に身に付けることはできないのでしょうか?
否、そんなことはないと思います。
飽くなき向上心による鍛錬と
理想の選手に近づきたい思い
日本代表で一緒にプレーした中村俊輔さんは、全体練習後に直接フリーキックの練習をしていました。セルティックの一員として出場したチャンピオンズリーグでマンチェスター・ユナイテッドを相手に、当時世界屈指のゴールキーパーと言われていたオランダ代表エドウィン・ファンデルサールから2度も直接フリーキックを決めた俊輔さんが、代表活動の期間中も日課のように直接フリーキックを蹴っていました。
プロデビューを飾った横浜F・マリノスに在籍していた当時は、日本代表のチームメイトでもあるゴールキーパーの川口能活さんを相手に、練習後に直接フリーキックを蹴っていたと聞きました。
生まれながらに優れた感覚を持っていたことに加え、日々の飽くなき鍛錬が俊輔さんを世界最高クラスのフリーキッカーにしたと思うのです。
僕がパスセンスにそれなりの自信を持つことができたのは、幼少期の憧れだったラモス瑠偉さんのプレーを脳内ハードディスクに焼き付け、実際に真似をしてみて成功や失敗を繰り返したからでした。
憧れの選手の真似をする──誰でも一度は経験があるのでは?そして、「ああ、なかなか同じようにはできないなあ」という小さな挫折を味わうのでは?「成功と失敗を繰り返した」と書きましたが、僕も失敗が圧倒的に多かったです。