改正貸金業法の完全施行を6月18日に控え、対象外のはずだった銀行や信用金庫などの緊張感が高まっている。法改正で消費者金融から借りられなくなった消費者に、代わりに貸すよう迫られかねない状況になりつつあるからだ。

 事の発端は、関係省庁が設置した「貸金業制度に関するプロジェクトチーム」が出した「借り手の目線に立った10の方策」。その中で今後の健全な消費者金融市場を形成するために、「銀行・信金等による社会的責任も踏まえた上での積極的な参加が望まれる」という文言が盛り込まれたことだった。法改正に対する激変緩和措置の一つだ。

 これを受けて金融庁は、銀行の監督指針の改正に着手。そのパブリックコメントを見た関係者のあいだでは、「金融庁は、強引な取り立てなどをやらなくて安心できる銀行本体に、新しい消費者金融市場を形成させたいのでは」といった憶測が飛び交ったのだ。

 現に複数の金融庁幹部からは「消費者金融というフィールドがあるのに、なぜ銀行自身がそこで戦わないのか」という指摘が相次ぐ。さらには亀井静香金融相も「銀行には零細事業者や個人の短期・少額の資金需要に応じる責任がある」として、「方法は非常に難しいが、金融庁としては銀行業務の裾野を広げていく指導をしたい」と発言。「そんなことを言われても、個人向けはカードローンを一生懸命やっているのだが……」(メガバンク幹部)と、関係者は困惑の色を隠せない。

 銀行関係者は「消費者金融はわれわれとは別物。顧客の属性がまったく違うので、貸して大丈夫かという審査ができない」と口を揃える。メガバンクなどが自前でやらずに、消費者金融を傘下に収めていったのもそうした理由からだ。

 もちろん当局も、現時点で銀行に無担保・無保証の個人向け貸し付けのノウハウがないことは百も承知。そこで当面は、消費者金融の保証機能を活用することも踏まえた監督をしていく予定だ。

 それでもある金融関係者は、「当面ということは、いつかは銀行本体が単独で、保証なしの裸融資をしなくてはならなくなるのだろう」と危機感をにじませる。そのうえ、「返済できない可能性が高いというので貸金業者からすらも借りられなくした人に、銀行がおカネを貸すべきだという話になれば、こんなにおかしな話はない」と不満をぶちまける。

 こうした意見に対し、田村謙治・内閣府大臣政務官(金融担当)は「銀行や信金を消費者金融の受け皿にするつもりも、検査や報告で過度な負担を強いるつもりもない」と否定。とはいえ、つい最近、検査姿勢の“コペルニクス的大転換”を味わった金融機関としては、「亀井大臣のひと声でどう転ぶかわからない」(信金関係者)のが実情だけに、関係者の不安は収まらない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

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