「2位ではダメなんでしょうか」

 次世代スーパーコンピュータ(スパコン)などの開発予算の仕分け作業中に、あの蓮舫議員(現・行政刷新大臣)が投げかけた質問は、余りにも有名になった。

 実際の仕分け作業においては、次世代スパコン予算は一時、「凍結」判定が下されたこともあったが、その一方で、富士通ではスパコンのノウハウを応用した“廉価版スパコン”の販売が絶好調なのだという。

 スパコンとは、高度な演算能力のあるコンピューターのこと。国家プロジェクトとして使用された、地球環境をシミュレーションするスパコン「地球シミュレータ」は1台当たり60億円もする。

 廉価版スパコンとは、企業向けの高性能コンピュータのことであり、価格を数千万円程度に抑えている。その方式は、「PCクラスタ」と呼ばれ、複数のパソコン(PC)サーバを接続して演算能力を高める仕組みになっている。

富士通のPCサーバPRIMERGY(プライマジー)BX900

 富士通はPCサーバを基幹事業に育成しようとする施策の一環として、昨年12月に、PCクラスタビジネス推進室を発足させた。専門部隊の設置からわずか半年で、「昨年に比べて、商談の数が3倍に増えた」(田中豊久・富士通PCクラスタビジネス推進室室長代理)とホクホク顔だ。

 絶好調ぶりは数字でも明らかだ。PCサーバのシェアで比較すると、2008年度ではヒューレット・パッカード(HP)30%、富士通12%と2位に甘んじていたが、09年度では富士通30%、HP25%と首位の座を獲得した。

 それでは、実際に、このPCクラスタを使って何ができるのだろうか。

 電機メーカーや自動車メーカー、精密機器メーカーなどの製造業が、新製品開発の過程で、実験データの解析を行なうのに向いている。

 富士通が自社で活用した一例を挙げよう。通常、携帯電話端末の新製品を投入する際には、安全性・機能性などの点検のために、1機種あたり1500回の落下実験を行なう。それが、PCクラスタの演算能力を使ってシミュレーションすることで、実験回数は半分に激減したという。

 販売単価5万円程度の携帯電話端末の場合、試作品となると原価ウン十万円もするのがザラである。試作品が半分に減るだけで原材料費の大幅ダウンになるし、実験がスムーズに進捗することで、新製品の開発期間を短縮することも可能なのだ。

 同様に、自動車の衝突実験、薄型テレビや複合機の耐久性実験に使うこともできるし、変り種では、絶対に実験してはならない製品――、たとえば、原子力発電の事故実験などもできてしまうという。汎用性の高さをウリに、“廉価版スパコン”が徐々に、企業へ浸透してきているのである。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)

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