石油や天然ガスに比べてはるかに廉価ということもあって、石炭の消費が新興国で増え続けている。使用禁止が非現実的である以上、、排出された二酸化炭素(CO2)を回収・隔離し、地中深くに封じ込めるしかないと地球温暖化研究の第一人者は警鐘を鳴らす。
ハワード・ハーゾック マサチューセッツ工科大学(MIT)エネルギー環境研究所主任研究員 |
読者のなかに、石炭という言葉を耳にして、なにをいまさらと感じた人がいたならば、今その認識を改めてほしい。
2007年に、科学者らで構成されるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、平均気温の上昇など気候変化の原因を、人間活動による二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの排出であると、初めて断定したことは記憶に新しい。この人間活動を第一次エネルギー源という視点で見た場合、石油や天然ガス以上に問題なのがじつは石炭なのである。
石炭が石油や天然ガスに取って代わられたとのイメージは正しくない。世界で使用されている電気の4割は依然、石炭火力でつくられている。米国では5割。日本のような“省エネルギー”先進国でも依存度は2割に達する。中国に至っては、8割という高水準だ。
産出地域が中東などに偏り政情不安の影響を被りやすい石油に対して、石炭は世界各地に広く分布しており埋蔵量も豊富で値段も安い。経済活動を支える安定的なエネルギー源として、石炭は今もこれからも欠かすことのできない重要な存在なのである。
地球温暖化防止を考えた場合、この石炭問題の解決策は、極論すれば、二つしかない。一つは、使用の禁止。もう一つは、排出されたCO2を分離し、どこかに封じ込めてしまうことである。
前者が政治的にも経済的にも非現実解であることは幼児にもわかる。となると、われわれに残された道は後者しかないはずだ。
じつはこの技術は、CO2回収・隔離(CCS:Carbon Dioxide Capture and Storage)技術と呼ばれ、すでに実在する。むろん石炭だけでなく、他の化石燃料にも対応可能だ。問題は、実用化開発がいま一つ盛り上がりに欠けていることである。
CCS批判者は、地中に封じ込めたCO2が長い年月をかけて漏れてくることをことさらに強調する。ただ、多くの研究の結果、数百年、長ければ1000年にわたり、貯留できることはわかっている。それはIPCCの報告書でも確認ずみのことだ。
子孫に問題を残すとの意見もあろうが、今そこにある危機に対応せずして未来はない。なにより石油・天然ガスの供給源が限られているなかで、新興国が成長を続けようとするならば、石炭依存度が上昇することは目に見えている。CO2削減の切り札となる技術が見えない以上、CCSは現実的な解決策であるはずだ。(談)
(聞き手/ジャーナリスト マイケル・フィッツジェラルド)
ハワード・ハーゾック(Howard Herzog)
マサチューセッツ工科大学(MIT)エネルギー環境研究所主任研究員 米国を代表する地球温暖化防止技術の研究者。イーストマン コダック、ストーン&ウェブスター、アスペンテクノロジー社などを経て、1989年にMITエネルギー環境研究所に入所。1997年に米国エネルギー省がまとめた「炭素封じ込めに関する白書」の筆頭執筆者。