「1000歳まで生きる最初の人間」はもう生まれている?英科学者の衝撃発言の「合理的な根拠」とは?写真はイメージです Photo:PIXTA

現在、老化の研究が盛んに行われているが、その原因克服のカギとなるのがナノロボット技術だ。人体に入り、老化防止や健康維持のために働くというナノロボット。科学とテクノロジーの融合が切り開く「不老長寿」の未来とは。※本稿は、レイ・カーツワイル著、高橋則明訳『シンギュラリティはより近く 人類がAIと融合するとき』(NHK出版)の一部を抜粋・編集したものです。

老化は治せる時代へ?
細胞レベルから寿命革命

 この10年間、科学者や投資家は老化の謎を解明することにそれまで以上に真剣な注意を向けている。この分野で先頭を走る1人は、生物老年学者で「LEV(寿命脱出速度)財団」の創設者であるオーブリー・デ・グレイだ。

 デ・グレイは、老化とは自動車のエンジンが摩耗することに似ている、と言う。車のエンジンは、そのシステムを通常に使っていくなかでダメージが蓄積していく。人間の体の場合は、ダメージは主に細胞代謝(生きていくためにエネルギーを使う)と細胞複製(自己複製のメカニズム)のふたつから生じる。代謝は細胞の中とまわりにゴミを発生させ、ダメージは酸化(車のさびとよく似ている)を通じて、たまっていく。

 若いときの体はこうしたゴミをとり除き、ダメージを修復することを効果的に実行できる。だが年をとってくると、大半の細胞が複製をくり返すなかで、エラーが蓄積していく。最後には修復が追いつかないほどダメージが速くたまっていくのだ。

 70代から90代の人にとって、このダメージはひとつの致命的な問題をひき起こすかもしれないが、複数の問題の原因となりうるのはもっと長い時間が経ってからのことになる。

 だから科学の進歩によって、80歳の人にとって致死的となるガンを治せる薬が開発されれば、その人はほかの病気で死ぬまでに10年近く生きられるだろう。だが最後にはすべてが一度に壊れていき、老化のダメージによる症状を効果的に治せなくなるのだ。

 そこで、長寿の研究者は、唯一の解決策は老化自体を治すことだと主張する。デ・グレイの立ちあげた「SENS(加齢をとるに足りないものにするための工学的戦略)研究財団」は、それを実現するくわしい研究目標を提案している(すべてをなし遂げるには数十年を要することは確実だ)。