「体重が軽くなった気がする――」見慣れぬ機具を股に挟み、階段を昇り降りすると今まで体験したことの無い不思議な感覚を覚える。
その機具とはホンダが開発した体重支持型歩行アシスト。アシモの開発で得た二足歩行技術を応用、ユーザーの体重の一部を機具が支えることで、足の筋肉と関節の負担を軽減する効果がある。
機具につながった専用の靴を履きスイッチを押すとモーターが起動、内腿に沿うようにフレームが伸び、シートを股に挟む。固定するベルト等はなく、数秒で装着完了、フレームはひざのように曲げ伸ばしでき、総量6.5kgの機具の重さは全く感じない。
内蔵されたリチウムイオンバッテリーは家庭用プラグの一充電で約2時間持続。いたって手軽である。人の重心であるへそ方向へアシスト力を向かわせる機構と、靴に内蔵したセンサーで足の動きに合わせたアシスト力を制御しているので、しゃがむ、歩き出すといったことも自然にできる。
体重支持型歩行アシストを着けて圧倒的にラクになるのは中腰姿勢だ。人は通常、長時間中腰になると足がぷるぷると震え疲れてしまうが、この機具はユーザーの体重を直立姿勢で3kg、中腰姿勢で9kg体重を支え、運動強度(筋肉の使用量)やエネルギー消費量を約20%軽減してくれる。そしてひざを曲げれば曲げるほど、アシスト力は強くなるよう調整されている。
というのも、この体重支持型歩行アシストは産業分野で活用されることを前提に、まずは自動車工場従業員向けに開発されたものだからだ。工場は近代化が進んだといえ、基本は立ち仕事で、中腰作業も多い。長時間のライン作業従事は肉体的・精神的に負担がかかる。
現在、具体的な実用化は未定で、価格も公表されていないが、「構成部品はさほど高価ではなく、生産量が増えれば安くなる」(本田技術研究所・芦原淳研究員)。今月からは埼玉県狭山市のホンダ四輪工場で10台前後、実際の使用環境に合わせ検証されており、長時間使用するほど疲労が軽減される効果が出ているという。さらに集中力の持続など二次的効果も合わせて検証し、個々で好みのアシスト力に調節できる機能の追加も検討する。
将来、他の工場も含めて本格的な実用化となれば、従業員の負荷が減り、生産の効率性があがって全体のコストダウンにもつながるだろう。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 柳澤里佳)