ゲーム業界2位のスクウェア・エニックスの和田洋一社長の戦略は空振りに終わった。8月29日に同社が買収提案したテクモは、これを断り、業界9位のコーエーと経営統合を協議する道を選んだ。

 テクモは「欧米に強い当社とアジアに強いコーエーとは相乗効果が発揮できる」(柿原康晴会長兼社長)と言うが、業界内には、「テクモの社名が消えることを恐れて拒んだ」と見る向きが強い。

 テクモは社内が混乱しており、どの会社に買収を仕掛けられてもおかしくない状況にあった。今年6月に「チームニンジャ」を率いていた有名クリエーターが報酬未払いの訴訟を起こし退社。さらに9月1日に安田善巳社長(当時)が「一身上の都合」で突然辞任、創業家で医師出身の柿原康晴会長が社長を兼務していた。

 テクモは売上高でスクエニの10分の1にも満たないが、欧米ではXbox向け「NINJA2」などのソフトの知名度が高い。Xbox向けソフト開発と海外展開に後れを取ったスクエニとしては、テクモのゲーム開発力と海外でのブランドは魅力だった。

 和田社長は買収提案は撤回したものの、同社に未練は残している。実際、テクモとコーエーとの統合条件が双方の株主に受け入れられるかなど、不透明な部分もある。

 テクモの行方は流動的だが、この一件がゲーム業界の新たな再編の引き金になりそうだ。売り上げ規模を見ても、世界最大だった米エレクトロニックアーツ(EA)は日本円換算で約4000億円とスクエニの3倍近い。昨年12月に誕生したアクティヴィジョンブリザードは、EAの売り上げを抜いた。

 海外メーカーは莫大な開発費をかけ、ハリウッドとも協力関係を強めている。日本の中堅ソフト会社は開発の下請けに使われているのが実情だ。

 日本メーカーが海外勢に対抗していくには、海外で強いコンテンツやノウハウを持っているソフト会社が連携し、海外市場を開拓していく方法がいわば王道。スクエニの和田社長はその先陣を切ろうとしたが、この流れが今後、さらに大きくなる可能性も十分にある。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 大坪稚子)