今週、産業活力再生法の改正法案が国会で可決、成立しました。政府が一般企業に出資(公的資金を注入)する枠組みが整備されたのです。これで政府は政策投資銀行を通じて、一般企業に出資も大規模融資もできるようになりました。しかし、この政策は、15兆円という補正予算の大盤振る舞い以上に将来に禍根を残す可能性があるのではないでしょうか。重要な問題ですので、今回はこの政策の問題点を整理しておきたいと思います。

中途半端な政策目的

 まず気になるのは、一般企業への政府出資という政策の目的が中途半端というか不明確ではないか、ということです。

 新聞報道によると、(1)売上と資本の急減、(2)一定規模以上の雇用、(3)民間からの出融資、(4)企業価値を向上させる事業計画の策定、という4つの条件をクリアした企業が政府出資の対象になるようです。(1)は大抵の企業が直面しているし、(3)はある意味で当然のことなので、問題は(2)と(4)でしょう。

 (2)が意味するところは雇用の維持でしょう。しかし、採算性が低くなった大企業を本当に再生させようと思ったら、人員整理や不採算事業の売却など大規模なリストラは不可避であり、雇用の維持は難しいのです。雇用の維持という美名の下での非効率企業の温存と、危機を逆バネにした企業の再生の促進の、一体どちらに主眼が置かれているのでしょうか。

 新聞報道によると、政府は出資先企業の経営には関与しない方針のようです。それ自身は正しいと思いますが、裏を返せば、字面だけの厳しい計画を書いてその場凌ぎをできる余地を支援先企業に与えてしまいかねません。出資者である政府が出資先企業のガバナンスに関与しないとしたら、その企業が厳しい再建計画を本当に実行するかを誰が監督/担保するのでしょうか。

 その他様々な点から判断すると、この制度を立案した側の意図は、形式的には短期的な雇用の維持、実質的には非効率大企業の温存と問題先送りにあるとしか思えません。

“危機の常連さん”の救済?

 実際、政府出資の候補や政投銀融資先としては、過去の不況の度に危機や非効率性が指摘されつつも、結局抜本的な手術が行われずに非効率なまま温存されてきた企業の名前ばかりが報道されています。

 出資先として名前が挙がっている企業は電機業界ばかりです。このうち、パイオニアについては、主力事業カーナビのグローバル市場でのシェアやブランド力を考慮すれば、新たな企業価値や雇用を生み出せる可能性があり、政府支援には合理性があるように見受けられます。