9月末に面白いデータが発表されました。英国でネット広告の市場規模がテレビ広告を追い抜いたというのです。この事実がどういうインプリケーションを持つかを考えてみましょう。

 英国のInternet Advertising Bureau(“ネット広告局”とでも訳すのでしょうか)の発表によると、英国での今年上半期のネット広告への支出は前年同期比で4.6%増加しました。これに対して、広告支出全体では前年同期比で16.6%も減少したので、結果としてネット広告のシェアが23.5%に上昇しました。テレビ広告のシェアは21.9%でしたので、主要先進国の広告市場で初めて、ネット広告の市場規模がテレビ広告を追い抜いたことになります。ちなみに、印刷メディアは英国の広告市場での最大シェア(30%)の地位を守りました。

 さっそくこのニュースは日本でもネット・メディアで盛んに報じられています。ネット至上主義の方々は、英国での逆転という事実をもって「遂にネットがマスメディアを超えた。ネットにシフトした広告費がテレビや新聞に戻ることはないだろう。オールド・メディアはいよいよ崩壊するだろう」といった主張をさせるのではないでしょうか。

 しかし、そうしたことを言い出す人がいても信じてはいけないと思います。私は、この発表に関連して二つの論点を冷静に考えてみる必要があるのではないかと思っています。

他国にも波及するか?

  一つは、本当に他の国でもそうなっていくのだろうかということです。結論から言えば、英国と同じような事態がすぐに他国でも起きるとは思えません。

 そもそも、英国のメディア事情は比較的特殊ではないかと思います。例えば米国や日本の広告市場ではテレビが占めるシェアが最大であるのに対し、英国では印刷メディアの方がテレビより大きいのです。

 これは、英国のテレビ業界で最大のシェアを有するBBCが受信料で運営されているため、広告が入らないからです。これに対して米国や日本のテレビ業界は民放が中心であるため、広告市場におけるテレビの位置づけが非常に大きいのです。従って、英国と同じようなネット広告とテレビ広告の市場規模の逆転が近い将来に起きるとは思えません。むしろ、日米ではネット広告が新聞広告を超える日がまず来るでしょう。