菅政権が発足してわずか3週間で、正しい改革が進むであろうと思われる良い兆候が早速出てきました。ところが、日本学術会議の騒ぎでほとんど報道されていないので、今回はその良い兆候について説明したいと思います。ただ、それが埋もれてしまった原因である日本学術会議を巡る官邸の対応は、悪い兆候と言わざるを得ないのですが……。
放送のネット配信に関する河野大臣の暴走?
河野太郎行革・規制改革担当大臣は、行政手続きでの脱はんこや、書面・対面主義の見直し、縦割り110番など、改革の牽引役として政権発足早々から獅子奮迅の活躍をしています。ただ、自分が菅政権の目玉という自負からか、ちょっと暴走気味かとも思える部分もありました。その典型が、放送番組のネット同時配信のための規制改革です。
その内容を非常にざっくりと説明しますと、放送事業者が放送番組をネット配信する場合、配信については放送番組と別に、実演家などの権利者の許諾が必要となるため、規制改革推進会議は著作権法を所管する文化庁に規制緩和を求めてきました。
これに対して文化庁は、これまで非常に慎重に検討を進めてきました。複雑な法体系や実務の中でどの部分から対応するかなど、様々な論点があるからです。
その結果、これまで3年近く議論はすれど、なかなか規制改革が実現しなかったのですが、菅政権発足早々の9月25日(木)に開催された規制改革推進会議の投資等WGでその様子を見た河野大臣がブチ切れて、文化庁に対して「やる気がないなら担当部署を変える」とまで恫喝したのです。
その様子は多くのメディアが報道しましたが、それを見て私は正直、「河野大臣は早く手柄を出そうと焦り過ぎだな、本件について規制改革が実現しない障害がどこにあるのか分かってないのではないか」と感じました。
その理由は、放送事業者は“いいとこ取り”を狙っていたと思われるからです。放送番組のネット配信が容易になれば、放送事業者の収入は増えることになりますが、そうなると当然、その収入増加分から権利者にどれくらいの割合が配分されるのかが、権利者の側にとっては非常に重要となります。
しかし、放送事業者は規制改革の具体的内容こそ強く要望するものの、権利者との利益分配については何も提案していませんでした。自分たちにとって美味しい規制改革だけ先取りして、利益分配についてはその後に権利者と交渉すれば強い立場の自分たちに有利になるように決められると考えていたのかもしれません。放送事業者による“規制改革の食い逃げ”となる可能性が十分にあったのです。