徐々に拡がっているけれども、盛り上がりを欠く。確定拠出年金の現状をひと言でいうとそんな感じではないか。精彩を欠く最大の理由は、近年の運用環境が悪かったことだ。確定拠出年金加入者の多くが、儲けよりも損を抱えていることだろう。制度にしても商品にしても、大きく普及するのは市場が好調なときだが、次のチャンスをいいかたちで迎えるためには、不振のときにこそ欠点を解決して体制を整備しておく必要がある。

 まず、確定拠出年金の制度が個々にばらばらで、たとえば、勤めている企業が採用する確定拠出年金の商品ラインナップにいい運用商品がない場合でも、その中で商品を選ばなければならないという問題がある。取引先金融機関に自社の確定拠出年金を丸投げする企業も多く、この場合、その金融機関の系列運用会社の商品が多数並び、しかも、それらの運用手数料が十分に低くない。

 確定拠出年金の運用をどうしたらいいか悩んでいるという人の相談を聞いても、その人がどんな制度と商品ラインナップの確定拠出年金に加入しているかによって、ベストなアドバイスの内容が大きく変わる場合がある。

 また、企業が確定給付の年金をやめて、確定拠出年金に移行することはいいのだが、この際に運用手数料が大きく上がる傾向があることは、目立ちにくいけれども加入者の大きな負担になっている。

 加えて、確定拠出年金がある企業とない企業があり、確定拠出年金の長所であるポータビリティ(持ち運び可能性)が十分には発揮されていない。大きな集団として公務員が確定拠出年金制度を持っていないことも問題だ。

 現政権が今後予定している年金制度改革の内容とも関連するが、確定拠出年金は企業・組織単位の編成をやめて、全国民一律に提供される個人型をベースとすべきだ。現在の確定拠出年金は、個々の制度の規模が小さく、供給側で規模の利益が働かないし、金融機関がコスト回収のために顧客を囲い込むような商品ラインナップだ。