多くの命はもちろんのこと、数多の働く場までも奪った東日本大震災。厚生労働省が「被災者等就労支援・雇用創出会議」で提出した資料によると、東日本大震災により岩手・宮城・福島で被害を受けた就業者は合計84.1万人と言われている。震災から約2ヵ月が経過したゴールデンウィーク中もハローワークなどに仕事を求める人が数多く詰めかけたが、未だに十分な就労の場が確保されていないのが現状だ。また、自粛ムードや福島原発事故の影響などによって震災の直接的な被害を受けていない地域でも倒産が相次いでおり、雇用不安は被災地外にも広がっている。こうした日本全国に広がる雇用不安を打破し、一日も早い復興を遂げるために今どのような対策と支援が求められるか。国際基督教大学の八代尚宏教授に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン林恭子)

ハローワークの求人一元化、地元優先には課題も
就労支援には「官民協力」が重要

――甚大な被害を受けた岩手・宮城・福島では多くの人々が職を失った。政府は被災者の就労支援・雇用創出のため『「日本はひとつ」しごとプロジェクト』を立ち上げ対策に乗り出しているが、その評価を踏まえて短期的にどのような雇用対策が望まれるのかお教えいただきたい。

やしろ・なおひろ/国際基督教大学教養学部教授。経済企画庁、日本経済研究センター理事長等を経て、2005年より現職。近著『労働市場改革の経済学』(東洋経済新報社)など著書多数。

 短期的には道路・公共施設等の社会インフラの再建が最優先され、それに必要な労働力需要と被災者の就業ニーズとのマッチングが必要である。

 そのためにハローワークの機能を積極的に活用することは必要だが、政府の『しごとプロジェクト』にあるように、「(求人情報の一元化のために)復旧事業の求人をハローワークに提出するよう民間事業者に求める」というような地方自治体等への押し付けは行き過ぎだと思われる。復旧事業のための人材の募集のやり方は、求人元企業の自主的な判断に委ねるべきだ。

 他方で『しごとプロジェクト』に記載されてはいないが、評価ができる対策も行われている。厚生労働省は震災後に設けられた避難所に人材紹介や労働者派遣の民間事業者の就労相談を促すため、本来は厳しい人材ビジネスの窓口設置要件を大幅に緩和した。これは評価できる“しごとプロジェクト”といえるが、『しごとプロジェクト』に記載がないのは非常にもったいないことであり、官民協力が必要な事態ではもっと推奨すべきである。