要約本文

◆「注文をまちがえる料理店」で本当にあったものがたり
◇「働くことができる喜び」を感じるスタッフたち

 「注文をまちがえる料理店」の営業時間は、11時から15時までの4時間で、普通のレストランと比べると短い。しかし認知症は状態が進行すると、疲れやすくなることもあり、介護職員や福祉チームのサポートがあっても、スタッフにとっては決して楽な仕事ではない。

 たとえば認知症になると、「1+1は?」という問いかけにも「2」という答えを導き出すまでに長い時間がかかったり、結局その答えがわからなかったりすることがある。「わかって当たり前」のことがわからない状況にあるため、普通ならば気を遣わなくてもいいところにも、常に神経を張り巡らせなければならない。そういう状況が、疲労を加速させるのだ。

 しかし「注文をまちがえる料理店」でスタッフとして働いた74歳のヨシ子さんは、かつて美容師として働いていたこともあり、4時間の間一度も休憩をとることなく、すばらしい働きぶりを見せた。もちろん注文を間違えてしまうことは何度もあったが、ヨシ子さんにとって重要だったのは「仕事ができる」という事実であり、人から必要とされる喜びだった。

 この日「注文をまちがえる料理店」で働いたスタッフには、認知症で自信をなくし、ふさぎ込みがちになっていた人も多かった。しかし、「間違えても、やり直せばいい」という場所で働くことで、明るい気持ちを取り戻すことができたという。

◇来店客にも希望をもたらす料理店に

 「注文をまちがえる料理店」に来店したお客さんの中には、知的障がいを持った青年もいた。大人になるにつれて自分に向けられる視線に対して敏感になり、人を嫌って外食することにも抵抗を感じていた青年だったが、「メニューを間違えるかもしれない」というワードに惹かれ、「注文をまちがえる料理店」を訪れた。

 そして彼は、そこで久しぶりに明るい笑顔を取り戻すことができた。誰にでも話しかける彼に眉をひそめる人は誰一人としておらず、あるがままの彼を受け入れてくれた。また一緒に訪れた両親も、ゆったりとした気持ちで食事を楽しむことができた。彼にとって「注文をまちがえる料理店」は特別な場所になり、あそこで働いてみたいという希望も生まれたという。

 根本的には彼の外食嫌いも人嫌いも変わったわけではない。すべてがよい方向に変わったわけではないし、「注文をまちがえる料理店」ができたからといって、認知症の状態にある人の問題がすべて解決したわけでもない。

 ただ働く人にとってもお客さんにとっても、「間違いを受け入れてくれる」場所があることが、何ものにも代えがたい価値となったのである。